インフルエンザ治療薬が、受注ラッシュにわいている。

 地方自治体は昨年、新型インフルエンザ対策として2009年度からの3年間で1463万人分の治療薬を備蓄することを決めていた。そこに新型インフルエンザが国内で発生、20を超える自治体が当初計画の一部前倒しを決めた。備蓄の9割超を占める「タミフル」を販売する中外製薬には、業績を上方修正するだろうとの株式市場の期待が高まっている。

 対して、既存の備蓄比率が1割に満たない「リレンザ」にとっては、シェア巻き返しの好機である。

 昨冬、タミフルが効かない季節性インフルエンザが流行したことで、リレンザ200万人分が緊急輸入され、その知名度は一気に高まった。また、新型インフルエンザがタミフル耐性を持つリスクも認識された。今年6月にはクスリの有効期限も5年から7年に延長され、“備蓄の経済性”でもタミフルに並んでいる。

 しかも、今回の新型インフルエンザは若年層に感染者が多く、10代への使用が原則禁止されているタミフルに替えて、リレンザが使用される比率が高まっている。実際、大阪府では35%、神戸市では53%の患者に使われた。

 リレンザがシェアを上げる条件は揃った。だが、実現は難しそうだ。今の受注増はあくまで“前倒し”。リレンザのシェアも当初計画の1割程度のままで備蓄が進められている。もっとも今後、タミフル耐性への対応や、今回の新型インフルエンザの特性を受けて、備蓄シェアが見直される可能性もある。だが、問題はその時期だ。現在、第一三共や塩野義製薬が開発を進めている新種の国産治療薬が承認申請に向けて最終段階に入っている。見直し時期が国産薬の発売後なら、有事における供給の安定性が考慮され、国産薬が優先される可能性が高い。

 いまや「順番待ち」ともいわれるほどの大量受注にわくリレンザだが、タミフル追撃は簡単ではなさそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 佐藤寛久)