人事制度や組織デザインは、いわば企業の骨格である。それを担う人事部門の役割は、ますます大きくなっている。しかし、多くの企業の人事部門は自分たちの役割を狭く捉えていないだろうか。現在の人事部門には、企業の成長を支える戦略的な役割が期待されている。今後、チャレンジすべきことは多い。

 日本企業の人事は変わりつつある。そこにはさまざまな側面があるが、象徴的なものが賃金体系だろう。2000年前後から、職務給を導入する企業が増えているという調査結果もある(日本生産性本部「第14回 日本的雇用・人事の変容に関する調査」14年3月発表)。

 同調査によると、管理職層で役割・職務給を導入している企業は1999年に21.1%だったが、13年には76.3%に増加。非管理職層では同期間中に17.7%から58.0%にまで増えている。職能給や年齢・勤続給の比率は漸減傾向を示している。

標準化、効率化の一方で
戦略的な能力を強化する

元P&G米国本社
HR担当ヴァイスプレジデント
会田秀和氏
米ブリガム・ヤング大学マリオット・スクール・オブ・ビジネスで組織行動学修士を取得後、P&G本社に入社。人事および組織デザインのプロフェッショナルとして、P&GジャパンとP&Gコリア(韓国)のグローバル化などを手掛ける。現在、AIDA LLC代表。アストラゼネカの社外取締役、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授(組織行動学)も務める。著書に『P&G流 世界のどこでも通用する人材の条件』(ダイヤモンド社)。

 賃金体系の変更の背後には、経営者と人事部門の変革に向けた意志がある。ただ、グローバルな視点から見ると、この変革をさらに加速する必要がありそうだ。P&Gジャパンの人事本部長、P&G米国本社のHR担当ヴァイスプレジデントなどを歴任した会田秀和氏は次のように語る。

「欧米では職務給がスタンダードです。特に、グローバルで事業を展開する企業にとっては、パフォーマンスに基づく給与、職務給への転換は避けられないでしょう。パフォーマンスの低い日本人がハイパフォーマンスの外国人よりも高給といった状況があれば、海外で優秀な人材を集めることはできません」

 00年ごろまでは、P&Gジャパンでも職能給が維持されていたという。会田氏は同社の人事本部長に就任した後、職務給への転換をはじめ、さまざまな人事制度、組織や文化の変革をリードした。

 こうした変革は、グローバルのP&Gの仕組みに寄せていく標準化でもあった。賃金制度だけでなく、福利厚生制度や人事部門の業務も標準化を進めた。また、定型業務はアウトソーシングされ、海外のシェアードサービス拠点が担当することになった。

 標準化と効率化を徹底する一方で、会田氏は人事部門の戦略的な能力の向上にも力を注いだという。

「例えば、ある企業が新規事業を強力に推進するとすれば、人事はそれに適した人材を社内外から探し出さなければなりません。経営戦略を実行するために必要な人材を育成、または外部から招き、組織のデザインや文化のあるべき姿を描く。それらは人事の戦略的な役割ですが、日本企業ではそのような認識が十分とはいえません」