いま、世界で最も読まれている思考法「0ベース思考」とは、いったいどんな考え方か? ノーベル賞の先行指標と言われるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞したシカゴ大学の「鬼才」経済学教授レヴィットと敏腕ジャーナリストのダブナーによる書籍『0ベース思考』は、全米で超異例の初版50万部で刊行され、シリーズ750万部を超えるなど、欧米を中心に爆発的な話題となり、いまや日本でもベストセラーリストを賑わせている。
本連載では、同書から冒頭部分を全3回で紹介する。第1回は、ペナルティキックを打つ方向すら経済学的に「ごく合理的に」答えを出してしまう方法についてだ。

何でもゼロベースで考える

『ヤバい経済学』と『超ヤバい経済学』(ともに東洋経済新報社)を出してから、ありとあらゆる質問がぼくたちのところに舞い込むようになった。
「大学の学位には“それだけの”価値があるのか?」(簡単な答え:イエス。くわしい答え:やっぱりイエス)。
「家業を子どもに継がせるべきか?」(もちろん、家業をつぶしたいのならね。データを見るかぎり、外から経営者を引っ張ってきたほうがよさそうだ)。

 もっと本質的な質問もあった。
「何があれば本当に幸せになれる?」「所得格差ってそんなに深刻な問題?」「オメガ3脂肪酸の多い食事は世界を平和にする?」

 いろんなものごとの、よい点、悪い点を知りたいという人もいた。
 自動走行車に母乳育児、化学療法に相続税、水圧破砕法、宝くじ、祈り療法、オンラインデート、特許法の改正、サイの密猟、アイアンでのティーショット、仮想通貨などなど。あるとき「肥満の蔓延を解決する」方法を教えてほしいというメールを受けとったかと思えば、5分後には「世界の飢餓をなくして、いますぐ!」なんてメールを受けとる始末だった。

 ややこしすぎて解決できない謎や、難しすぎて解決できない問題なんかあるはずがないと、読者ははなから思い込んでいるようだった。ぼくたちが特別なツールを、何か特製の鉗子みたいなものをもっていて、それを体に差し込めば、埋もれている知恵を引っ張り出せるとでもいうように。
 それが本当ならいいのに!

 現実には、問題を解決するのは難しい。何かの問題がいまもあるってことは、いままでも大勢の人が解決できなかったってことだろう。簡単な問題は消えてなくなる。いつまでも残っているのは、難しい問題なのだ。それに、小さな問題一つとっても、きちんと答えを出すには、適切なデータをつきとめ、整理して分析するのにかなりの時間がかかるものだ。

 だから個別の質問に答える本を書いて、むざむざ失敗するくらいなら、前の2作で示したようなちょっと変わった、そう「フリーク」〔常識の枠に収まらない人、既存の慣習にとらわれない人〕みたいな考え方が誰でもできるようになる、って本を書いたほうがいいんじゃないかとぼくたちは考えた。

 それはどんな本になるだろう?