6月に西井孝明・取締役常務執行役員に社長の座を譲る伊藤雅俊社長。在任中に敢行した構造改革の総仕上げとして、AGFを完全子会社化した。その狙いはどこにあるのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)

 「私の仕事は、構造改革を敢行すること。バルク事業に依存しない会社に変えることが私の使命だった」──。3月6日、多くの報道陣が詰め掛けた社長交代会見の席で、味の素の伊藤雅俊社長は、自身の6年間の在任期間を振り返った。

 就任当初より、伊藤社長は、2017年3月期のバルク事業比率を10%程度に安定化させることを目指し、二つの改革に取り組んできた。

 一つ目は、バルク事業の高付加価値化である。バルク事業とは、飼料用アミノ酸やMSG(グルタミン酸ナトリウム、いわゆる味の素)、甘味料などのコモディティ商品のこと。これらの商品は価格の変動幅が大きく、相場が事業の損益に直結する。

 例えば、味の素は14年3月期にバルク依存体質の恐怖を味わった。営業利益が約100億円も吹き飛び、618億円となったのだ。

 原因は、競争激化に端を発したリジン(豚や鶏の飼料用アミノ酸)の価格暴落。これにより、飼料用アミノ酸事業の利益は前年の135億円から、赤字スレスレの2億円にまで落ち込んだ。

 競合メーカーとの価格競争に対抗すべく、味の素は、乳牛用のリジン「AjiPro‐L」やバリンなどの高付加価値商品の開発に着手してきた。

 20年には、飼料用アミノ酸事業における高付加価値商品の比率を6割にまで引き上げる計画を掲げており、15年3月期では、4割程度に達する見込みだ。

 しかし、13年に業界第2位の韓国企業、CJ第一製糖もバリンの開発に成功し参入を検討するなど、高付加価値商品のコモディティ化、低価格化は避けられない。

 かといって、「世界4カ国に生産拠点を持ち、世界中に取引先を抱える飼料用アミノ酸事業からの撤退も非現実的」(味の素の経営に詳しい林廣茂 中国・西安交通大学大学院客員教授)である。進むも地獄、退くも地獄であり、バルク事業の将来の見通しは決して明るいとはいえない。