新ジャンル、いわゆる第3のビール「金麦」の1~9月での販売数量が対前年比で277%。ビールと発泡酒を合わせたビール系飲料全体でも対前年比113%という驚異的な販売増を達成したのがサントリーだ。

 おかげで1963年のビール事業参入以来、初めてサッポロビールを抜き、年間シェア3位の座を獲得する見込みだ。

 ただし、この販売数量急拡大の“秘訣”は単純明快。ライバル各社が原材料、製造・物流コストの高騰のためにいっせいに値上げに踏み切ったのに対し、サントリーは8月末まで缶入り商品の価格を据え置く、つまりは実質的な“安売り”で、一気に販売数量を伸ばすという作戦に打って出たのだ。

 実際、スーパーの店頭価格は、たとえば冒頭の金麦は350ミリリットル缶6本ケースで他社より30円以上、酒ディスカウントショップ(DS)では350ミリリットル缶24本ケースで120円以上、つまりは消費税相当分安いという値付けとなった。

 その結果が、市場全体では前年比マイナス2.7%と、92年の現行統計開始以来、史上最低という厳しいなかでの2ケタ増という、サントリーのひとり勝ちとなったわけである。

 だが、さすがのサントリーの“安売り”も8月末まで。9月1日出荷分からは値上げし、これで全社が値上げしたことになる。ただし、ビール業界では値上げが浸透するには2~3ヵ月かかる。値上げ前の駆け込み発注や、流通との力関係が影響するからだ。

 そんななか、早くも値上げの影響が出ているのがコンビニエンスストアだ。スーパーや酒DSと異なり、コンビニは値引き販売が皆無のため、サントリーの店頭価格も値上げで他社と横並びになった。

  この結果、大手マーケティング会社の調査によれば、サントリーのシェアは値上げ後、ほぼ半減し、“安売り”前の水準に戻りつつあるという。スーパーや酒DSでも、六本ケースで10円台、24本ケースでも50円台と、他社との価格差は縮小しており、シェア低下は必至だ。

 ライバルからは「シェア維持のための安値誘導をいつまで続けられるのか」との声も出る。サントリーが“安売り”で獲得した新規顧客をどこまでつなぎ止められるかが、今後の正念場だ。

 年間シェア3位の座は揺るぎそうにないとはいえ、圧倒的安値という武器を使えなくなったサントリーからのシェア奪還にライバルは虎視眈々(たんたん)だ。とりわけ、首位の座をめぐって争奪戦を繰り広げるアサヒビールとキリンビールにとって、市場の攪乱要因が消えたことは朗報だ。

  第3四半期を終えた時点でトップのアサヒと2位のキリンのシェア差は0.5ポイントしかない。ビールの最需要期である年末年始に向けた冬商戦で、サントリーが値上げで失うシェアをより多く奪ったほうに首位の座が転がり込む。壮絶な冬商戦が始まった。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成 )