ハーバード大学卒業後、マッキンゼー、BIS、OECDなどを経て、現在は京都大学の教壇に立つ河合江理子氏と、ボストン・コンサルティング・グループ、ゴールドマンサックス証券を経て、スター・マイカ代表取締役会長を務める水永政志氏による対談。日本、そして世界を知る両氏から、これからの時代に求められる人材像などが語られた。対談は全4回。

三井物産の名前すら通用しなかった当時の世界

河合 私たちがお会いしたきっかけは、京都大学の木谷哲生先生からのご紹介でしたね。木谷先生のお話を伺った翌日に水永さんの授業があると聞き、参加させていただいたらとてもダイナミックでおもしろかったことを覚えています。

水永 それがスタートでしたね。私の授業を2回も聞いていただきましたが、ものすごく緊張しましたよ。

河合 まったくそうは見えなかったですが。私もスイスから京大に着任したばかりで、学生のレベルや興味、授業方法を模索していた時でしたので、大変参考になりました。

水永 こちらは金融のプロが目の前に座っているので、間違った話はできないというプレッシャーが……(笑)。

河合 それからは、私の「Global Career Management」という授業のゲストとして、水永さんにお越しいただき、英語で授業をしていただきました。

水永 そのときもプレッシャーを感じました。「それぐらいのことできなかったら、水永さん、もう仕事ないですよ」と言われて(笑)。

河合 いやいや、謙遜されますけど、本当に英語がお上手でした。「英語得意です」と言ってしまうレベルだと思います。

水永 謙遜ではなくて、本当に苦手なんですよ。能力を総動員して、一生懸命話しているので、やはり苦手意識はあります。

河合 それはわかります。私も、日本にいて日本語だけを使っているときに、突然、「英語で話してください」と言われても少しひるみます。

水永 ありますね。切り替えが難しい。ただ、1日ずっとやっていると、夕方には慣れてきます。だからこそ、90分だけ英語でとなると大変でした。その直前まで日本語で話しているので。

河合 グローバルキャリアの授業では、水永さんのサクセスストーリーと苦労話の両方をうかがいました。おもしろかったのが、大学を卒業してから三井物産に入社されて、そのあとに留学されたときのエピソードです。「Mitsui&Co」の名前をほとんどの学生が知らないことに衝撃を受けたとお話されていましたね。

水永 あれには衝撃を受けましたね、知られていなかったこともそうですが、日本人の間で常識とされている、「日本の一流企業は、世界でも当然、誰もが知っている」という物差しが、海外に行ったら全然通用してないことに驚いたんです。

 それはよし悪しではなく、今まで日本で自分が信じていたものは幻想で、グローバルにはないのかもしれないという気づきを得たことが大きかったです。そこで、グローバルの物差しとは何か、それを見なければいけないと考えました。アメリカに行くまでは、見る気もありませんでしたから。