>>(上)より続く

筆者 たぶん、東京本社の人事部などはそうした認識を持ち、シンガポール支店で正社員のグループ分けを試みていると思うんですね。その証券会社に限らず、日本の大企業は労働法などの縛りがゆるいアジアの国では、人事制度や賃金制度などで大胆な実験をすることがあります。そこで成功すると、日本にその人事制度を言わば「逆輸入」をするのです。

現地採用は「限定正社員」扱いで
年収300万円以下というひどい格差

 ところで、支店にあった他のグループは、どのようなものでしょうか。

A氏 3つめのグループは、管理部門。総務や経理、ITなどの部署があります。管理部門のトップの部長は日本人ですが、その下にいる社員40人ほどは、現地で雇い入れたシンガポール人です。

 数人を除き、ほとんどが単純作業に近い仕事をしていて、年収は200~300万円と聞きました。労働形態は、日本でいえば正社員に該当するようですが、昇格はなく、転勤もありません。昇給もほとんどないと耳にしました。「限定正社員」みたいなものなのでしょうね。あれでは派遣社員などの非正規と変わりませんよ。

 40人ほどの仕事のレベルは相当に低く、私も驚いたほどです。まさに「安かろう、悪かろう」です。ローコスト体制を維持する要員としてしか、見なされていない。それほどに仕事が単純化されているのです。安く使おうとするから、それなりのレベルしか集まらないのです。私は、ここに問題を感じましたね。

 現地人でも、IT部門のヘッドや部長、支店長になれるようにしないといけない。ところが現地人は「限定正社員」で、年収300万円以下……。これでは、現地人で優秀な人は入社しないでしょう。海外では、日本の企業は人材の奪い合いで負けている傾向がありますが、その理由の1つはこんなところにあるように思います。

筆者 たぶん東京の本社は、現地人は「限定正社員」で年収300万円以下でいい、と思っているのでしょうね。そもそも人件費を抑え込むために、シンガポールに進出したのでしょうから。むしろ300万円を100万円にするために、今度はアフリカなどに拠点を構え、そこでそのITの仕事を一斉に賄おうとするかもしれませんね。10~20年以内には……。IT部門は、それが可能でしょう。
   
 資本の論理は、弱いところを徹底して弱くしていくことにありますから。それが、ある意味で健全なのでしょう。