「牛肉禁止令」でムンバイ駐在員妻たちに広がる恐怖インドでは、先進国のような感覚で牛肉を食べられないが、なぜか牛乳や乳製品の消費は盛んである
Photo by Hitoshi Iketomi

 経済成長著しいインド最大の商業港湾都市ムンバイで、20年ぶりに復活した「牛の屠殺禁止令」(牛肉禁止令)が波紋を呼んでいる。

 この3月4日に大統領府で即日発効した牛肉禁止令から2カ月後の5月5日には、イスラム教徒が中心の食肉販売業者などが大規模な反対集会を開いたばかり。

 2014年5月に発足したナレンドラ・モディ政権の母体は、ヒンズー教至上主義のインド人民党で、牛を神聖な動物と崇めることから、牛肉を食べるという文化の撲滅を図りたいと考えている。

 だが、現地では、「牛肉を食べるムスリムへの嫌がらせがそもそもの狙い」ともささやかれている。

 もっとも、とばっちりを受けているのは、牛肉も豚肉も食べる外国人で、駐在員とその家族の間には動揺が広がっている。

 それもそのはず、この禁止令を要約すれば、「牛の屠殺のみならず、売り買いしたり、持っていたりするだけで、『6カ月以上、5年以下の禁錮刑(保釈なし)』または『1000ルピー以上、1万ルピー以下の罰金刑』が科される」(現地駐在員)という厳しい内容だからだ。

 まるで、覚せい剤などの麻薬の取り締まりのように厳格で、一切の抗弁を許さないマハラシュトラ州政府の姿勢が駐在員妻たちを、恐怖のどん底に陥れている。