構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載12回目は、J.フロント リテイリング相談役・奥田務氏に持続的に成長する企業を作るために考えてきたこと、実践してきたことをさまざまな側面から聞いた。

【顧客とのつながり】
現場に問題意識がなければ、顧客ニーズは見えてこない

松江 百貨店ビジネスは時代を先取りして顧客ニーズを捉えてゆくことが持続的成長のうえで生命線ですが、ニーズの掴み方やお客さんからのフィードバックの受け方で工夫された点を教えてください。

経営者にとって大事なのは<br />将来を見通す洞察力奥田務(おくだ・つとむ)
J.フロント リテイリング相談役、前会長兼CEO。慶應義塾大学卒業後、1964年大丸に入社。大丸オーストラリア代表取締役などを経て、1997年に大丸代表取締役に就任。2007年9月の松坂屋グループとの経営統合を主導し、統合後発足したJ.フロント リテイリングの代表取締役社長兼CEOに就任した。元トヨタ自動車社長・会長で、元日本経団連会長を歴任した奥田碩氏は実兄。

奥田 そこでの大きなポイントは、日本の百貨店と欧米の百貨店のビジネスモデルの違いです。欧米の百貨店は自分で仕入れて、リスク背負って自分で販売する。我々の場合、それは10%~20%程度で、残りはテナントさんに入っていただき、仕入れて売ってもらって、そこからマージンを取っている。欧米流ではどれだけ在庫を残さないように仕入れるかに中心が置かれますが、それを日本ではテナントさんがやっているわけです。

 そうなると、我々の仕事は、むしろひとつひとつのテナントさんをいかにお客さんの求めに応じて入れて、編集構成していくのかということになります。そのテナントさん1店1店の売り上げの積み重ねが我々の全体の売上になりますから、それぞれのテナントの人達にどれだけやる気を出して売ってもらうかと、いうことにビジネスモデルの中心は変わるわけです。日本の百貨店のビジネスモデルが欧米と異なり、「テナント型」マネジメントが中心である事をよく認識して、新しいビジネスモデルや収益構造を確立していく事が大切です。

  例えば、以前は年間350人ぐらいの大卒・高卒を採用していましたが、そんなに人が必要ないことがわかってきた。仕入販売はテナントさん側がされるわけですから、我々は補助的なことしかできない。そうなると、その2つのビジネスモデルの差をあいまいにしたまま人間を配置しているのでは無駄が多すぎます。

 その上で今の日本の百貨店の中心的なビジネスモデルでは、たとえば、お客さんはAというブランドの店ではその販売員は自分をよく知ってるからよく応対してくれるけど、Bという店では全然扱いが違うということが発生してしまう。だから、ブランドの如何にかかわらず、全店でトータルにお客様のショッピングニーズに対応してくれる人が必要になるのですが、誰も気がついていないわけです。そこに気づけば、そのニーズに対応する社員を教育し配置するべきです。

 高齢者のお客さまは荷物を持って歩くのが大変です。そうであれば、荷物を持って歩いてくれるポーターのサービスをやったらどうかと。時代とともにお客様のニーズが変わることに対して、どうビジネスモデルを組んで、どう効率的に人を張り付けて働かせていくかでコアコンピタンスが変わってくる。そこを意識せず、漠然とやっていたら「人はいるけど、お客様の求められるサービスがない」と言われてしまう。