今回は、不動産会社から大手IT系ベンチャー企業に転職した男性を紹介しよう。

 そのベンチャー企業はここ十数年来メディアでよく話題となる会社であり、就職では学生から根強い人気がある。

 男性は、新卒時にはこの会社の内定を得ることができなかった。不動産会社で7年間耐え抜いて、中途採用試験にパスした。不動産会社に在籍した「苦節7年」間のみならず、転職後も周囲をイラッとさせる言動をとり続け、「言うだけ番長」というニックネームもつけられた。

 今回は、この男性と元同僚たちの姿を描くことを通じて、サラリーマンの心を腐らせる「仲間意識」「和を重んじる」という人間関係の罠について分析したい。


「今さら何を迷っているんだ?」
転職の相談で同僚をイラッとさせる男

人を散々利用して陰では悪口三昧 <br />同僚の心を腐らせる「言うだけ番長」社員サラリーマンの「仲間意識」は重要だが、それは時として社員同士の心を腐らせかねない。ある不動産会社で周囲をイラッとさせ続けた、「言うだけ番長」社員の素顔とは?

 ここは、中堅の不動産会社(社員数400人)の営業部のフロア。

「大隈さん、ちょっといいですか……」

 広報部の福元(29歳・仮名)が大隈の机にそばに来て、前かがみになり、声をかける。大隈(36歳・仮名)が即答しないと、頭を軽く下げる。

 福元は今、辞表を出すか否か迷っている。数週間前に受けた大手IT系の会社(社員数1000人規模)の中途採用試験で内定を得たらしい。知名度の高いベンチャー企業で、新卒の頃から入社したかった会社だ。

 勤務時間中であり、周囲には上司や同僚がいる。大隈がわざとらしくため息を軽くつく。そして15メートルほど離れた階段の踊り場に向かう。その後を、福元がついていく。

 誰もいないことを確認し、大隈が話す。

「今さら、何を迷っているんだ!」

 福元は、そっけない態度に拍子抜けしたようだ。

「本当にいいんでしょうか。辞めて……」