構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載15回目は、デュポン名誉会長・天羽稔氏に、持続的成長を支える組織力の、そしてリーダーに必要な条件についてお話を伺う。

<リーダーシップ>
時代が変わっても変わらないものこそ持続的成長の源泉

松江 デュポンは200年企業ですが、経営者である天羽さんからご覧になって、持続的成長のためには何が重要でしょうか。

耐力こそがリーダーの条件 <br />困難を乗り越えた経験が組織を率いる力となる天羽稔(あもう・みのる)
デュポン株式会社名誉会長 徳島県出身。ワシントン州立大学工学部卒業後、デュポンファーイースト日本支社(現 デュポン株式会社)に入社。自動車関連事業本部部長、名古屋支店長、開発企画部部長、エンジニアリングポリマー事業部長、取締役、副社長などを経て2006年9月より代表取締役社長。2013年1月、代表取締役会長兼デュポンアジアパシフィックリミテッド社長。2014年9月より現職

天羽 デュポンは「今後、世界でどんな問題が起こるのか」を常に考えています。最近の大きなポイントには、人口増加や環境問題などがありますが、デュポンが持つサイエンス、テクノロジーがどこで役立つかを考えながら成長戦略を描いています。まだまだ道半ばですが、持続的成長に向けては、マーケットが求めているものを、いかに早く出して行くかを重視しています。

松江 御社のように持続的に永らえる経営の要諦としては何が必要でしょうか。

天羽 デュポンには、「コアバリュー」という一種の企業文化が根付いています。企業文化は、世界中90カ国どこに行っても、すべてのベースになるものなので、社員教育もそこからまず行って大きなブランドができ上がっていきます。そういう企業文化をつくるには、時間はかかります。ただ、それがあることによって、いい意味で社員が一つの考え方でまとまります。これは時代が変わっても変わらないもので経営の根幹を支えるものです。

松江 そこでの時間軸についてはどのようにお考えでしょうか。

天羽 私は先の時間軸を意識して、やることを3つぐらいに分けて考えます。1つ目は、「今、一番、何をやらないといけないのか」、2つ目は「それをどうやって早くやり遂げ、やったときに、どういう形のものができるのか」、そして3つ目は「最終的に自分がここに行きたい」というビジョンです。ビジョンについては、新しく組織やリーダーが変わった場合でも、変わらずにそこに向かっていこうと思えるものです。

 持続して戦略が引き継がれていくためには経営者が代わっても、次の新しい経営者がそれを踏襲できるかどうかが大切になります。3年、4年ぐらいでリーダーが代わると、また違う人が違うことをやり出すわけですが、人を育てていくとか、組織を改革することには、考えが踏襲されていくことが必要です。組織にしても、完成するまでには4年、5年、もしくは10年かかるかもしれませんから、経営者が踏襲して持続していくことは重要です。