「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。

”専門家”は、ときにゲーム中にリフティングを始める

LINE(株)CEOを退任した森川亮氏が明かす!<br />「本質からズレた努力」をしない確実な方法!

 “専門家”になってはいけない──。

 僕は、そう考えています。

 もちろん、ビジネスパーソンはそれぞれ専門知識や専門技術を磨き上げなければなりません。しかし、しばしば“専門家”は本質を見失ってしまう。いわば、リフティングの名手のようなもの。リフティングの妙技そのものは素晴らしいのですが、ゲームが始まれば、ゴールを決められなければ意味はありません。ところが、“専門家”はときに、ゲーム中にリフティングを始めてしまうのです。

 かつて、ハンゲーム・ジャパン株式会社時代にこんなことがありました。

 ゲーム市場の主役が、パソコンからフィーチャーフォンに移行しつつあったころのことです。当時、パソコンの世界ではコンピュータ・グラフィクスでつくり込んだ精緻なゲームが流行っていました。しかし、フィーチャーフォンではとてもそれと同じものを実現することはできません。データ容量が大きすぎますし、携帯電話の画面サイズでは再現不可能。だから、フィーチャーフォン向けの「手軽なゲーム」を開発する必要が生じたのです。

 これに一部の社員が強く抵抗。「こんなものはゲームではない」と言うのです。その気持ちはよくわかりました。これまで、精緻なゲームづくりで実績を挙げてきた彼らにすれば、「手軽なゲーム」をつくるのは、自分のこれまでのキャリアを否定するに等しいことだからです。しかし、僕は「それは違う」と主張しました。なぜなら、彼らは本質からズレていると思ったからです。

 そもそもゲームとは何でしょうか?
 遊びです。人々が楽しく遊べるゲームは、よいゲーム。そう考えれば、「美しいグラフィクス」はゲームの本質ではなく、あくまでゲームの一要素に過ぎません。それにこだわることで、フィーチャーフォンで求められるゲームを開発しないのは本末転倒。「そもそも」を忘れたとき、人は誰でもこのような過ちを犯してしまうのです。

 これは、僕がかつてソニーに勤めていたときにも感じたことです。