がん研有明元院長が教える、がん治療の最前線日本人の死因第1位であり、2人に1人がかかるといわれる「がん」

日本人の死因の第1位が、「がん」になって久しい。1981年以降、現在にいたるまでがんは死因のトップであり、我が国の「国民病」といっても過言ではない。そうしたなか、2006年にはがん対策基本法が制定され、「がんの予防と早期発見の推進」、「がん医療の均てん化の推進」、「研究の推進」の3つを柱とした施策が進められてきた。制定から約9年が経過した現在、がん治療はどのように変わったのか。また、がんを予防、あるいはがんに罹患しても適切な治療を受けるにはどうすればよいのか。がん研有明病院の元院長であり、現在は同院のメディカルディレクターを務める武藤徹一郎名誉院長に話を聞いた。(聞き手/医療ジャーナリスト 渡邉芳裕)

がん対策が大きく進展した3つの理由

――2006年にがん対策基本法が制定され、「がんの予防と早期発見の推進」、「がん医療の均てん化の推進」、「研究の推進」の3つを柱とした施策が進められてきました。がん対策の現状をどう見ていますか。

がん研有明元院長が教える、がん治療の最前線むとう・てついちろう
がん研有明病院名誉院長。1963年、東京大学医学部卒業。インターンを経て1968年、東京大学大学院第三臨床医学課程を修了、医学博士号取得。1970 年よりWHO奨学生としてロンドン聖マーク病院に留学。帰国後は、大森赤十字病院外科部長、東京大学医学部第一外科助教授、同教授、同附属病院院長、東京 大学医科学研究所教授および臓器移植生理学研究部長(併任)を経て、1999年、(財)癌研究会附属病院副院長、東京大学医学部名誉教授。2002年、癌研究会附属病院院長、2008年より現職。現在では、同病院のメディカルディレクターも務める。

 がん対策基本法の制定後、がん対策への取り組みはかなり進展したと思います。とくに、がん医療の均てん化(※)は大きく進歩したと言っていいでしょう。2006年当時、がん診療連携拠点病院の条件を満たす病院は、全国にほとんどありませんでした。しかし、がん対策基本法が制定されてからは、各病院が真剣にがん対策に取り組み、現在では全国各地に拠点病院が整備されています。

 しかし、がん医療の均てん化といっても、すべて一律にする必要はないと考えています。人々が日常の生活圏域の中で質の高いがん医療を受けることができる体制を確保することが目的ですから、地域にある拠点病院が中心となって、地域ごとの特色を活かしたがん医療に取り組んでいくのがベストです。

 たとえば四国では、四国がんセンターを中心に、非常によいがん医療ネットワークができています。また、長崎では、島が多いという地域性もあり、もともと医師を派遣するネットワークが整っていて、長崎大学を中核としたがん医療のヒエラルキーができています。このほか富山県では、化学療法や放射線治療など、病院ごとに役割分担を決めてがん医療にあたっていると伺っています。

(※)全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること。