全世界の軍事支出の12%を毎年充てることで環境問題が解決する、という試算をご存じでしょうか。今回ご紹介する『地球に残された時間――80億人を希望に導く最終処方箋』では、「プランB」と呼ばれる「環境の処方箋」を紹介しています。その内容を少しだけお見せしましょう。

崖っぷちに立つ地球の環境問題と<br />問題解決への明確なプランを提示レスター・R・ブラウン著、枝廣淳子、中小路佳代子訳『地球に残された時間――80億人を希望に導く最終処方箋』2012年2月刊。300ページにおよぶ骨太な翻訳書です。

 6月上旬、ドイツで開かれたG7サミットでは、2050年までに、温室効果ガスの排出量を10年比で、40%~70%の幅の上方に削減するという首脳宣言が採択されました。年末にはパリでCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)が開かれ、新しい枠組み作りに合意できるかどうかが焦点となります。

 地球環境問題の大家・レスター・R・ブラウンが著したこの本は、こうした時宜にぴったりの1冊です。レスターは地球の環境問題が、人々が考えているよりも深刻であることを指摘しつつ、人類はそれを解決すべき手段をすべて持っており、その処方箋を提示しています。

水資源の枯渇がもたらすもの

 35℃を軽々と超えるようになった真夏の暑さに、ゲリラ豪雨などなど、日本でも「気候が何かおかしい」と感じている方は多いと思います。この本を読むと、世界規模で進む環境破壊について、われわれがいかに無知であるかを思い知らされます。

 たとえば、砂漠の国サウジアラビアが最近まで、主食である小麦を生産し自給自足していたのをご存知でしょうか。石油掘削技術を用いて、砂漠のはるか下にある「化石帯水層」から水をくみ上げることで、灌漑農業を可能としたからです。しかし、2008年に同国は「この帯水層がほぼ枯渇したため、小麦生産を段階的にやめていくと発表」しました。化石帯水層は地表近くにある帯水層と違って地下深くにあるため、降雨によっては回復されず、使い切ってしまえばそれで終わり。農業をやめざるを得ないのです。

 水のくみ上げ過ぎによる水資源枯渇は食糧生産を減少させ、難民を生み出し、ついには国家そのものを破たんに追い込むのです。水資源の枯渇問題は、サウジアラビアのような中東諸国や新興国に限りません。世界屈指の穀物生産国であるアメリカや中国にも忍び寄っています。本書では水資源問題だけでなく、土壌の浸食、気温の上昇がどのような結果をもたらすかが、詳しく描かれています。

 なぜ人々はこうした危機に気付かないのでしょうか。レスターは市場価格が真実を伝えていないからだと言います。例えば、ガソリンの価格には直接コストだけが反映され、気候変動、石油業界に対する補助金、排ガスによる健康被害、石油供給防衛のための軍事費などの間接コストは反映されていません。つまり、ガソリン価格は実際にかかっているコストより低く設定されているため、超過需要が発生しているのです。価格メカニズムは資源の配分にすばらしい効力を発揮しますが、「市場が間違った情報を与えれば、私たちは間違った決定を下す。それがまさに、これまでずっと起こってきたことである」(256ページ)と喝破します。