国内最大の通信キャリアにして、ついに営業利益で大手3社の最下位となったドコモ。その業績回復を左右するのは、オーバースペックだと批判されてきた高コスト体質の改革だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)

 今年4月28日、NTTドコモの2015年3月期決算の説明会でのこと。

 国内最大の6659万人という契約者数とスケールメリットを誇るトップ企業が、どうして大手通信3社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)において営業利益で最下位になったのか。「マージン(利益)への執着心をどう考えているのですか」。会場からは厳しい質問が相次いだ。

 それに対して、佐藤啓孝常務(財務担当)の口からは、こんな言葉が飛び出した。

「KDDIと比べると、ラフではありますが、2割ほど営業費用が高いことを自覚しております」

 国営企業にルーツを持つ歴史的経緯も含めて、これまでは格下と見なしてきたKDDIを、なんとドコモよりもコスト効率よく利益を上げている“お手本”としてぶち上げたのだ。

 同社関係者によれば、KDDIのコスト構造をベンチマークにして、社内で比較調査を始めたのは約1年前のこと。経営陣が社員らを集めて見通しなどを話す「社長対話会」の場でも、社名を挙げて繰り返し伝えてきているという。

「コスト最重視のソフトバンクほどドライな効率化は難しい。ならばau(KDDI)を目指せ、という取り組みです」(同社社員)

 過去から再三にわたって設備やサービスの過剰品質を指摘されてきたドコモが、初めて競合と比較してコスト削減を徹底するのは、成熟化した通信産業で差別化がいよいよ難しくなっているからだ。

 ドコモの15年3月期は、売上高で4兆3834億円(前期比1.7%減)、営業利益で6391億円(同22%減)となった。足元で営業利益が大きく落ち込んだ第一の原因は、音声通話を定額制にした「新料金プラン」(14年6月開始)の導入にある。

 なるべく通話料を安くしたいユーザーが予想以上に駆け込み、データ通信も価格の安いプランを選ぶケースが多数あった。そのため通話とデータ通信収入が大きく下振れたことが、営業利益で最下位転落の引き金となってしまった。

競合他社より
コスト4割増の
インフラ運営

 問題は、今後の業績回復シナリオをどう作るかだ。大手3社で通信ネットワークの品質は大差がなくなり、米アップルのiPhoneも全社取りそろえる。今年3月から「ドコモ光」など光回線と携帯電話のセット割引も各社で始まり、三すくみ状態が極まっている。

 そこで確実な「V字回復」を約束してくれるのがコスト削減だ。17年度までの3年間で約4000億円分の巨費を絞り出すため、全社を挙げて取り組んでいる。