米国のサブプライムローン問題を、住宅金融の視点から調べ直してみると、日米彼我の違いに驚いてしまう。

 例えばカリフォルニア州では、住宅ローンは法令で、「ノンリコースローン(非遡及方融資)」と決められている。ノンリコースローンとは、住宅ローンの担保である住宅を手放せば、残債(ローンの残り)があっても返済が免除される仕組みである。借り手の保護のための政策であり、預金などの他の資産に遡及されないで済むのである。

 日本のように、返済に行き詰まった最後は破産するか生命保険をもってあがなうなどという前近代的な回収は行われない、というわけだ。他州ではノンリコースローンが法制度化されているわけではないが、実態はそれに近いと見られる(注1)。

 貸し手にとってみれば、担保処分でしか融資を回収できない制度である。とすれば、融資額の回収不能、多額の損失計上といった事態を回避するには、物件審査が何より大事な生命線になる。

 本来、米国の金融機関の住宅資産査定は厳格この上ない。借り手は、新築であっても中古であっても購入に際しては、第三者機関の鑑定評価取得が義務付けられる。わずかでも不審な点があれば、金融機関側が再鑑定を依頼する。金融機関は、その査定額の8割しか融資しない。残り2割については保険をかける。つまり、保険会社の厳正審査も加わる。その審査たるや、修繕の履歴データをもとにした“家歴”の把握と、専門家による耐久性、耐震性、ユーザビリティなどの現物の徹底チェックである。

 いったん融資した後は、膨大なデータをもとに著名な経済学者が構想し、政府と民間格付け会社が共同で構築した「ハウジングプライスインデックス」を利用して、住宅価格、担保価格の変動を追跡し、管理するのである。

 とことん住宅の資産価値を追求するということは、住宅に資産価値があるということである。住宅を大事にするということである。米国で住宅ローンが(実態的に)ノンリコースローンなのは、住宅の資産価値が築数十年を経ても大きくは劣化しないからなのである。

 要は、何世代にもわたって住める優良住宅が融資対象になり、安普請にはカネを貸さないのだ。一方、借り手も資産価値を下げないために時々に補修を行い、維持管理に神経を使う。好条件で、転売するためである。

 この好循環によって、中古住宅市場が発達した。人びとは、買いたい物件と売りたい物件の買価格差をそれほど心配せず、耐久性、耐震性を懸念せず、自分のライフステージに合わせて転居できる。住宅が重要な社会資本として構築された「ストック型住社会」である。