関西の公益事業者ながら、化学、電力、燃料電池など新規事業を育て、海外にも積極的に飛び出し、伸び悩む国内ガス事業を代替している。その背景には、転んでもただでは起きないことをよしとする社内風土がある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

 携帯電話のカメラレンズに用いられる樹脂の素材である“白い炭素”こと「フルオレン」。世界シェア8割強を握るのは、化学メーカーではない。東京ガスに続く国内第2位の都市ガス事業者、大阪ガスだ。

 現在は天然ガスが主流だが、明治から昭和初期にかけては、ガスは石炭から乾留していた。その過程で排出されるコールタールには、1万以上の化合物が含まれている。大阪ガスは、なかでも耐熱性と光学特性がよいフルオレンに目をつけ、カメラレンズ用のポリエステル技術を旧カネボウから特許ごと買収、電子素材への転用を果たしたのだ。

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 2001年、韓国サムスン電子の携帯電話のレンズに採用されたのを機に、韓国から認知度が高まり、日本の携帯電話にも使われるようになった。高画素を生かす高い屈折率が売りだ。液晶テレビのバックライトの光を拡散するシートなどにも使われ、いまや年間1000トンを生産、売上高100億円突破も目前だ。

 フルオレンだけではない。同じくコールタールを転用した炭素繊維は、軽い断熱材として、新幹線や太陽電池用シリコン製造炉に使われる。

 炭素事業だけでもない。大阪ガスは、さまざまな分野の多角化に挑み、成果を上げている。2009年3月期の連結売上高1兆3267億円のうち、本業であるガス事業は約1兆円。残り3000億円強を多角化事業で稼ぐ。その内訳は、大きく分けて、(1)フルオレンなど炭素事業330億円、(2)発電事業490億円、(3)ソフトウエア開発など情報事業570億円である。