年間300億円を超える男性用整髪剤市場の首位争いが過熱している。2位の資生堂が1位のマンダムを猛追。一時はマンダムが40%超の市場シェアを握り、約20%の資生堂を圧倒していたが、最近は共に30%前後の水準で、ほぼ拮抗している。

 資生堂躍進の原動力は、昨年8月に発売したミスト(霧状整髪剤)「ウーノ フォグバー」だ。発売1ヵ月で240万本を売り切り、早くも年間計画を達成。2月末までに600万本を出荷するヒット商品となった。

 対するマンダムは、2月22日に同じ霧状の「ギャツビー クイックムービングミスト」を発売したものの、発売1ヵ月の販売実績を見る限り、月間100万本ペースのフォグバーの半分にも届いていない。

 追い上げる資生堂には2006年の苦い記憶がある。かつて男性用整髪剤市場のトップに立ち、他社に先駆けてワックス整髪剤(ジェル状・クリーム状)を投入しておきながら、イメージキャラクターとして木村拓哉さんを起用し、ワックスを全面刷新したマンダムに逆転を許したのだ。

 だが、資生堂の前田新造社長は、このような事態を予期して05年には密かに新商品開発を指示。屈辱的な敗北があったからこそ、脱ワックス路線のフォグバーが生まれた。ちなみに、フォグバーのキャッチコピーは「さよならワックス」。ワックスへのこだわりを捨てる決意が凝縮されている。

 一方、ワックスで資生堂を抜いたマンダムは、ドル箱商品へのこだわりを捨て切れなかった。今でも同社商品の宣伝文句は「やっぱりワックス、されどミスト」。ワックスを主軸に戦う姿勢を変えていない。

 現時点ではワックスが男性用整髪剤市場の主流であることに変わりない。しかし、全体に占める構成比は30%を割り込んで減少を続けており、かたやミストの市場は構成比が十数パーセントまで急拡大している。すでに両者の勢いの差は明らかだ。

 あくまでワックスにこだわるか、あるいはミストで反転攻勢をかけるか。かつて資生堂を追う立場では、マンダムは相手の土俵であるワックスに注力し、トップにのし上がった。しかし、現在ではワックスの成功体験があるがゆえに、相手の土俵(ミスト)に上がりにくくなっている。

 失敗が成功の母となり、成功が失敗のつまずきともなる。「禍福はあざなえる縄の如し」ということわざを地で行く販売合戦。06年以来の首位交代の日は案外近いかもしれない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)

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