創業80年、伝説の老舗キャバレー、東京・銀座「白いばら」に50年間勤務し、名店長といわれた著者が、お客様のための創意工夫をはじめて明かした『日本一サービスにうるさい街で、古すぎるキャバレーがなぜ愛され続けるのか』から、抜粋してお届けしています。

 高級クラブのホステスたちの仕事はハードです。深夜〇時まで店で働いた後、アフターで午前二時、三時までお客さまと付き合うことになります。よほど根性がないと、日中に他の仕事をすることなどできないため、プロフェッショナルなホステスとして必死に指名を獲得しなければなりません。

 一方、白いばらにはノルマも罰金もありません。お客さまがホステスを何人でも指名できるようにしていますし(一般的に高級クラブでは、指名は一人に制限されている)、指名数の順位を争わせるようなこともしていません。そのため、お客さまを奪い合う必要がないんです。

 それに兼業している(昼には他の仕事をし、夜はホステスをする)素人が多いので、気持ちにゆとりがあります。

 だから、ホステス同士の仲が良くて、みんなで協力してお客さまを楽しませることを最優先できるのです。

 そんな和気あいあいとしたムードなので、お客さまにもリラックスして過ごしていただけます。ホステスもお客さまも、お互い私欲がありませんから、無理して見栄を張らなくていいんです。

 白いばらでも、日本がまだ豊かでなかった時代のホステスはもっと必死でしたが、今だってホステスたちはただ座っているわけではありません。兼業とは思えない働きぶりを見せてくれています。

ノルマも罰金もないから<br />ホステスが協力しあえる「白いばら」<br />

 たとえば、常連さんの名前はもちろんのこと、何カ月前に誰と来たかまで記憶しているホステス、常連さんの領収書の宛名を完璧に記憶していて、お会計の際にお客さまを煩わせないホステス、常連さんのタバコを常にストックしておいて、接客中の席で常連さんのタバコが切れた時にスッと差し出すホステスもいます。

 また、落ち込んでいる常連さんをはげまそうと、とことんお酒を付き合い、酔いつぶれてしまって、その後、仕事にならなくなってしまったホステスもいます。

 白いばらには、人間関係を大切にする心のあるホステスが多いんです。

 もちろん、素人ゆえのデメリットもあります。昼に別の仕事をしているホステスは、どうしても毎日は出勤できません。多くて週三回程度になってしまいます。そういうホステスは、お客さまが指名したくても不在がちなため、お客さまも指名にこだわらなくなってしまうんです。

 ちなみに、白いばらには、二種類の指名の方法があります。一つは、お店に来た段階でホステスを指名する「本指名」。特定のホステス目当てに来られるお客さまはこの指名をします。料金は三〇〇〇円。そのお客さまの席は指名されたホステスが管理することになります。

 もう一つは、「場内指名」。店内で気に入ったホステスにチップ代わりに指名してあげたり、興味を持った子を自分の席に呼んでみたりする、言わば、お試しの指名です。料金は本指名の約半額です。

 ある新人ホステスが「指名をたくさん取るコツはなんですか?」とベテランホステスに聞いたところ、「とにかく、休まないこと。それだけよ」と答えが返ってきたそうです。