東芝が、2度にわたる延期を経てようやく2015年3月期の決算を発表した。併せて、資生堂の前田新造相談役を取締役議長とする新たな経営体制も公表したが、“再出発”の方向性はまだ何も見えてこない。それどころか、足元を見ると、財務も事業も、前途多難でしかない。(「週刊ダイヤモンド」編集部 森川 潤)

ようやく決算発表の東芝、新経営陣の前途は茨の道半導体部門出身の室町社長は、社内取締役の選任について「刷新と継続のバランス」と語った Photo by Jun Morikawa

「原子力、ヘルスケアは半導体に見劣りする。3本柱という力の入った表現は控えたいというのが私のポリシー」

 9月7日、ようやく発表された東芝の決算会見の席上、室町正志社長は、こう述べた。不正会計を受け、7月に就任後、初めて事業の方向性に言及したものだった。

 この日発表した2015年3月期の連結営業利益は、前年比33.7%減の1704億円。内訳は、稼ぎ頭のNAND型フラッシュメモリを中心とする半導体事業が2166億円なのに対し、原子力など電力・社会インフラ事業は195億円、CTなどヘルスケア事業は239億円にとどまった。家電などライフスタイル事業に至っては1097億円の赤字で、半導体の優等生ぶりだけが際立った。

 不正会計で退任した先代の田中久雄社長は、半導体に依存する「一本足打法」を回避しようと、原子力、ヘルスケアとの「3本柱」戦略を打ち出したが、決算を見る限り、まだ半導体頼みなのは一目瞭然。冒頭の室町社長の発言は、この現状を認め、過去の方針からの転換を強調したものともいえる。

 特に、17年に売上高1兆円を掲げたヘルスケアについては、「そうした大きな目標は、原点に戻って見直していきたい」と撤回を表明。さらに赤字事業については、「ライフスタイル、半導体の一部の不採算事業は制約を設けない大胆な構造改革を実施する」と、撤退・売却をもにおわせた。

原子力は青息吐息
資金繰りも厳しく
地獄の暗夜行路

 だが、今回の発表では、社外取締役を11人中過半の7人とするなど経営体制の刷新を優先したとはいえ、東芝の事業構成の「危うさ」だけが浮き彫りになった。

「特異な要因がなかりせば、増益を達成した。こういうことをご認識いただきたい」。東芝の渡邊幸一財務部長は、決算説明の席上、不正会計などの影響が「なかりせば」との発言を連発し、各事業の収益力があることを強調した。