アメリカのインターネット業界で、数年ごとに浮上する「ネットの中立性問題」がまた取りざたされている。今回のきっかけは、4月6日にワシントンの連邦訴訟裁判所が、FCC(連邦通信委員会)にはネットワークの中立性を、通信会社に強制する権限はないと言い渡したことだ。

 この訴訟は、2007年に通信会社のコムキャストが、ファイル共有サービスのビットトレントの通信速度を、意図的に抑えたことに端を発している。ネット中立性、つまりすべてのインターネット・トラフィックは、いかなるサイトやサービス、利用者にも公平に提供されることを提唱するFCCは、この事実が明らかになったところで、コムキャストにそうした抑制の中止を命令した。だが、コムキャストはそれに対して、FCCにはその権限がないと主張してきたのだ。

 今回の裁定は、コムキャスト側の主張が正しいと判断したことになる。つまり、インターネットのインフラを提供する通信会社は、独自の判断によってトラフィックを速くしたり、遅くしたりの制御ができるということになる。

 この成り行きは一見、アメリカ全土にブロードバンドを行き渡らせようというオバマ政権の計画にケチをつけたようにも見えるが、実はその反対だ。専門家たちの議論はすでに、「では、FCCにその権限を与えるにはどうすればいいか」という次のステップに移っているからだ。

 ビットトレントは、違法、合法両方の大容量ファイルを交換するために利用されている。その中には、ビデオやテレビ番組などのファイルが、数多く含まれており、それがコムキャストの制御を誘発させた。コムキャストは、アメリカの家庭にブロードバンドを提供する最大のインターネット通信会社だが、もともとはケーブル・テレビ会社だからである。自社のサービスに競合するファイル共有サービスの広がりは、どうしても阻止したいところだろう。

 同じように見ていくと、もしネットワークの中立性が確保されないとなれば、グーグルの動画配信サービスのユーチューブや、インターネット電話サービスを提供するスカイプなども、ブロードバンド通信会社が独自に設定する制御の犠牲になる可能性が高い。