「残念ながら最悪の決算だった」。4月14日、安部修仁・吉野家ホールディングス(HD)社長は、2010年2月期の決算を振り返ってこう述べた。

 営業損益、経常損益はBSE(牛海綿状脳症)の発生で牛丼の販売休止を余儀なくされた05年2月期以来、5年ぶりに、それぞれ9億円、5億円の赤字に転落。最終損益は、4期ぶり、上場以来最大の89億円の赤字になった。

 主因は事業会社が手がける「京樽」などの寿司関連事業と、「ステーキのどん」などのステーキ関連事業の業績不振によるところが大きい。これら事業で21億円の営業損失が積み上がるなどしている。

 一方、屋台骨である「吉野家」単体では16億円の営業黒字を確保した。しかし、既存店の売上高は、昨年12月に同業の「すき家」が280円に、「松屋」が320円に牛丼(並盛り)を値下げしてから落ち込みが激しく、直近3月までは毎月、前年同月比2ケタ減が続いている。

 それでも、「(他社が値下げしているからといって)成り行きに任せて(恒常的に)牛丼の価格を下げるという暴挙はしない」(安部社長)。値下げで売り上げが増加すれば、それだけオペレーションコストもかさむ。粗利益の減少分を上回るコストカットや売り上げ増がなければ、ジリ貧になる。

 グループ内での仕入れ共通化によるコストの削減や、オペレーションの効率化による労働生産性のアップなどで、まずは利益が十分に確保できる体制づくりを目指す方針だ。

 とはいえ、競争激化のなかでは、業績回復のため吉野家HDに与えられる時間は多くない。

 吉野家HDは同日、「(今期が)平常ではない年度になるという見方をした場合、グループで圧倒的影響力を持つ吉野家は強固な体質を持っていなければならない」として、安部社長自らが吉野家の社長を兼務する人事を発表した。トップダウンで躊躇なく改革に踏み込むためで、吉野家本業から立て直しを急ぐ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

週刊ダイヤモンド