5月6~7日、金融市場に緊張が走った。ユーロ急落、世界同時株安、信用リスク急騰と金融危機再来の様相を呈したからだ。EUとIMFは7500億ユーロのユーロ圏支援策を発表し、金融システム危機はすんでのところで回避された。しかし、混乱の発端、ギリシャの財政状況好転の公算は小さい。危機は燻り続ける。

 今回のギリシャ発ユーロ危機は、かねて燻り続けていた火種が一挙に燃え広がったものである。

 その発端は昨年10月21日、ギリシャ政府が発表した驚愕の数字だった。2008年の財政赤字の実績と、09年の財政赤字見通しを大幅に上方修正したのである。08年の赤字の対GDP比率は5.0%から7.7%に、09年は3.7%からなんと12.5%に修正された。

 ギリシャでは昨年、現首相パパンドレウ氏率いる全ギリシャ社会運動が総選挙で新社会主義党に勝利。政権交代で明らかになった前政権のずさんな財政運営が、前代未聞の大幅修正の原因だ。

 08年は、たとえば国立病院への未払い金などを歳出として計上していなかった。09年見通しについては、1.1%としていた経済成長率の前提をマイナス1.2%に下方修正し、税収見込みの大幅減で赤字がふくらんだ。もともとが大甘の見通しだったわけである。

 09年見通しについては、今年4月に成長率マイナス2.0%、赤字見通し13.2%に再修正された。政府債務残高の対GDP比率も09年末で115%に達する。(「政府債務残高と財政赤字(2009年)の対GDP比率」グラフ参照)

「当局は現在、統計制度を見直しており、財政赤字の対GDP比率は0.5%程度さらに上方修正される可能性がある」(伊藤さゆり・ニッセイ基礎研究所主任研究員)という。

財政赤字の対GDP比
いきなり4倍にふくらむ

 そもそもギリシャは、ユーロ発足当初からのメンバーだが、「欧州主要国の財政赤字の対GDP比率の推移」の表に見るように発足後の2000年以降、「対GDPで財政赤字比率を3%以内に抑える」というユーロ加盟の条件を一度たりとも満たしたことがない。

 こうした“前科”があるところに、前政権のお粗末な財政運営が決定打となってギリシャの財政危機が表面化した。

「ギリシャの信用リスクが急騰」のグラフで見るように、昨年末以降、ギリシャ国債の利回りは上昇し、信用度を示すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッドも拡大の一途をたどった。

 ギリシャ国債の約4分の3は海外投資家が保有している。信用度が低下し、海外勢が購入を躊躇すると、ギリシャは国債発行による資金調達に徐々に窮していく。