私たちが安くてよいモノやサービスの提供を受けるためには、二つの条件が必要となる。

1. モノやサービスの提供者同士が市場で競争すること。
2. 提供者は最終ユーザーのニーズを直接取り込みつつ競争すること。

 逆に言えば、市場を独占し、なおかつ最終ユーザーと離れたところから提供されるモノやサービスは割高で、品質の向上が望めないものとなる、ということである。経済政策は当然のことながら、上記の二条件を促進するための市場や法制度の整備に力点が置かれるべきである。

 ところが、私たち日本人は市場経済にいまだ不慣れなせいなのか、しばしばこの原則を忘れて議論を迷走させてしまう。とりわけ、民主党政権にはその失策が頻発する。

 原口一博総務大臣が「光の道」構想を提唱、その実現に邁進する自らを日本の未来を拓く幕末の志士に例えるほどののめり込みぶりである。

 「光の道」とは、「2015年までに日本国民の老若男女すべての人がブロードバンドサービスを利活用する社会を実現する」という構想である。おそらく原口大臣には、例えば大人から子どもまでiPadを自在に使いこなして――実際、政府内ではiPadを教科書として配布する計画が議論されている――便利で健康で豊かな生活を送っている姿が目に見えるのだろう。

 現在、超高速ブロードバンド基盤は、実は90%の世帯まで整備されている。だが、その90%の世帯の利用率は30%に過ぎない。ここで、「利用率100%の光の道」構想実現のため、議論の方向は二つに分かれるはずだ。第一に、100%の世帯にブロードバンドを使える環境を整備しなければならないとする議論であり、第二は、利用率の低さを問題視する議論である。

 原口大臣が任命した総務省タスクフォースは、第一の議論に傾いた。全世帯に光ファイバーという「光の道」を敷設、引き込むことは可能か。現在まだ普及していない世帯は山間部、離島にあり、人口比は10%であっても面積比にすれば日本列島の約半分までを占める。100%普及は費用対効果の観点から見て正しいのか――その実現の是非にNTTの組織分割論が絡んで、議論は紛糾した。

 NTT分割を持ち出したのはソフトバンクの孫正義社長である。光ファイバーを全国に敷設しているのはNTTグループの東西地域会社だ。そこから光回線網を所有する会社を分離する構想で、つまり、光回線を所有、保守し、貸し出す事業を行なう設備提供会社を分離、設立する。この設備会社からソフトバンクもKDDIもNTTも光回線を同等な条件で借り受け、最終ユーザーにサービス競争を行なうのである。孫社長は、「この構想が実現すれば、無駄な設備が省かれ、経営が効率化し、利用料金はメタルなみの月1400円にまで落とせる」と断言した。