大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。日本でも発売早々に増刷が決定、反響を呼んでいる。本連載では、NIC在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから、そのエッセンスを紹介する。

第10回では、私たちが今直面しているテクノロジーの進化と、雇用へのインパクトを分析する。かつての「産業革命」は、生産性の上昇と同時にイギリスの手工業者の失業、そして階級の固定化をもたらした。21世紀、新たなテクノロジーはどのような世界への「シフト」をもたらすのだろうか。

テクノロジーの進化は成功する見込みのない底辺層を生み出す

自動運転車やドローンよりも
雇用にインパクトを与える技術とは?

グーグルなどが開発を進める自動運転車は、向こう10年以内に実用化されそうだ。そうなれば、長期的には車の使い方から交通インフラの設計、さらには都市計画における土地利用法に劇的な変化をもたらすだろう。

こうして自動運転車の普及は都市設計の見直しを迫るとともに、都市住民のライフスタイルを変える可能性がある。車の所有のあり方と使用パターンも変われば、世界経済とりわけ自動車産業は大打撃を受けるおそれがある。もちろん恩恵を受けるメーカーもあるだろうが、車をステータスシンボルではなく実用品とみなす人が増えるなど、車の意味そのものが変わる可能性がある。

自動運転車への移行は、商用車が先行するかもしれない。高速道路で自動運転トラックの隊列(先頭または最後尾に人間の運転手が同乗する)を見かけるようになるかもしれない。また、自動運転車は途上国の原材料に対する過剰需要を鎮静化し、鉱業と農業の新たな工業化をもたらし、場合によっては子どもが引き受けている重労働を減らすだろう。

無人飛行機(ドローン)は、軍事分野では日常的に使われているが、向こう10年で民生用が拡大するだろう。カメラやセンサを搭載した安い無人機は、精密農業(種子や肥料や水の量や範囲を厳密に調整するカスタマイズ型農業)や、人間がアクセスしにくい場所にある送電線の点検などに使えるだろう。交通量の調査や改善にドローンを使うこともできる。

自動運転車と同じように、ドローンの普及を妨げるのはその用途ではなく、安全性と信頼性に対する懸念だろう。とりわけ人口密度の高い地域で運用される場合は懸念が大きい。このため世界のほとんどの航空当局は、民間空域でのドローンの使用を大幅に制限している。

人間の雇用にとって大きな脅威となるのは、高熟練労働者よりも速く正確に仕事ができるソフトウェアの開発だろう。グーグルやマイクロソフトの検索エンジンは、人間の能力をはるかに上回る強力な順位づけアルゴリズムによって、莫大な量のデータをふるいにかけて検索結果を出す。