リーダー人材の育成で重要なこととは?

前回、リーダーの育成には「タレントマネジメント」が必要であり、そのための研修では「評価」が重要だとお話ししました。その評価のなかでも重視されるのが、前回触れた「360度サーベイ(評価)」と「疑似体験」によるコンピテンシーの把握です。

成功企業が実践している「正しい社長の育て方」かしま・ていじ
セルム代表取締役社長 1998年に創業3年目の株式会社セルムに参加し、2002年取締役企画本部長に就任。今日では1000名を超えるコンサルタントネットワークの礎を築く。同社 常務取締役関西支社長を経て、10年に代表取締役に就任。一貫して「理念と戦略に同期した人材開発」を提唱し、次期経営人材の開発や人材開発体系の構築、リーダーシップ開発、組織開発などに携わる。升励銘企業管理諮詢(上海)有限公司 董事総経理 CELM ASIA Pte. Ltd. 取締役。

 コンピテンシーとは、その会社とその事業におけるハイパフォーマンスを形作っているマインドセットと行動です。例えば、顧客志向が高い人材を発掘、育成する場合には、研修参加者一人ひとりについて、その会社、その事業において顧客志向が強い人材がとる行動パターンの発揮頻度と自発性を5段階程度で評価します。

 具体的には、その行動が頻繁に見られるものかどうか、誰かの指示でやむなくやっているのか、それとも求められなくても自分から行動を起こしているのかをチェックします。これによって、例えば、顧客と接する機会の少ない財務部のような部署でも顧客志向の高い人材が見つかるかもしれません。その結果、ポテンシャルを開花させるチャンスを与えることもできるでしょう。

 ただし、評価者が社内の人材だけでは、公平かつ客観的な判断ができない可能性もあります。そこで考えたいのが、外部機関の第三者によるインタビューを活用することです。第三者がインタビューすることで、その人がどんな環境下で、どのような仕事をし、今後はどうしたいかといった全体像をつかむプロファイリングができます。数多くのリーダーと相対してきた第三者だからこそ、その人を映す鏡にもなりえるでしょう。

 インタビューの際には、例えば「最近のもっともタフな判断を必要とした事例を教えてください」といった質問をし、その経験を語ってもらいますが、その時の経験をしっかり棚卸しできていなかったり、実際には自分がやったわけではないことを話す場合もあります。第三者には、「棚卸しができていないから、次に同様の経験をしても再現性はないだろう」「自分でやったわけではないから、同じ行動ができるとは限らない」ということが即座にわかります。

 一方で、インタビュアーが社内の関係者である場合、評価される側が「インタビューの結果が人事異動に直結しそうだ」と考え、本音を話さないこともありえます。インタビュアーの判断にバイアスがかかり、その人をうつす鏡としてはふさわしくない場合もあります。

 実際、IBMのようなグローバル企業では次期社長を選ぶ際、第三者が社内と社外の社長候補者にインタビューを行い、その結果を社長以外は全員社外取締役である取締役会に提案し、それをもとに次期社長が選ばれています。

 これは株主から経営の委任を受けたプロフェッショナル経営者が経営するグローバル企業が考える社長の選び方の基本です。第三者が見極めを行うことで、客観性と説得力が担保されたと考えられているからです。日本企業でもグローバルレベルでガバナンスを強化している会社では、「社長指名委員会」をつくるケースが増えています。