参院選が6月25日公示、7月11日投開票と決まり、与野党は事実上の選挙戦に突入した。

 民主党は(1)16日に党首討論を行い会期通り閉会する、(2)会期を1日延長し16、17日に衆参両院で予算委員会を開く、という2案を提案していた。しかし野党側の反発で決裂し、結局、今国会の会期は延長せず、党首討論も予算委員会も開かずに閉会することとなった。

 どうやらその理由は、内閣支持率がV字回復したことにあるらしい。何かあったら大変だから、高い支持率のまま選挙に持ち込みたいのだろう。

野党から「逃げている」の声も
必要度が増す菅首相への質疑

 ただ、今回の菅首相の所信表明はいつもの所信表明演説とは違うはずだ。本来なら、その内容に対する予算委員会での徹底した審議がとりわけ必要とされている。

(1)今回の所信表明は、新首相にとって初めての演説。ならば、形式的な色合いが濃い本会議での代表質問だけではいかにも不誠実だ。所信表明演説の内容について野党の疑問に懇切に答える必要がある。それには予算委員会で多くの時間をかけるのが当然だ。

 菅直人首相にとっても、演説を国民により深く理解してもらえる絶好のチャンスではないか。野党が「逃げている」と批判したが、そう言われても止むを得ない。堂々と野党の十分な質問に応じれば、さらに支持率が上がる可能性もある。

(2)直後に参院選を控えているので、新内閣の姿勢や政策を、いつも以上に議論する必要がある。これも見方によっては、菅政権や民主党にプラスとなり参院選の勝利に寄与するかもしれない。

(3)もう1つ、菅首相に対する質疑の必要度を増している事情がある。

 それは鳩山由紀夫前首相が、退任の記者会見を拒否したことである。鳩山氏が退任に際して他の首相と同じように記者会見をすれば、政権交代後の政権運営について説明し、疑問に答えることができた。この退任記者会見がなかったため、菅首相に対する質疑の必要性は一段と増したのだ。

 今回の所信表明演説について、自民党などから“官僚作文”の批判も出ている。だが、そうではないと私は信じている。演説のトーンや内容でも、近年の首相と比べると上場であった。それは彼が自分の言葉で演説をしたからだろう。

 それにしても、会期を延長せず、予算委員会を開かないというのはいかにもずるい対応だ。党や内閣が何を言おうと菅首相自身が、十分な会期延長を主導すべきであった。首相が逃げずに正面突破しようとすれば菅首相への期待は一層強まったに違いない。

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