中国人民銀行が人民元の切り上げを容認する姿勢を表明し、リーマンショック間近の2008年7月以来2年近くに及んで1ドル=6.83元前後で固定されてきた元相場が再び上昇を始めた。

 中国側は当初、5月下旬に北京で開催された「米中戦略・経済対話」の前までに、米国からの圧力をかわすために上昇容認の方針を表明するのではと見られていたが、ギリシャ債務問題に端を発した欧州連合(EU)の危機の深まりと世界金融市場の混乱を受けてオバマ政権が対中姿勢を軟化させたことを幸いに、“人民元高”慎重派が盛り返し、結論を先送りしていた。

 それでも、6月26日から始まる主要20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、オバマ政権はこの問題で中国政府に対し国際社会や米国内の世論を納得させることができる“回答”を求めていた。中国としても、この辺りが妥協を示すぎりぎりのタイミングと見たのだろう。

 とはいえ、一件落着には程遠い。

 米財務省OBの言葉を借りれば、「ユーロ安に伴う欧州向け輸出の崩落が中国経済に与える影響を我が事のように心配しているホワイトハウスは、今回の北京の決定をなんとか持ち上げたい」。だが11月に中間選挙を控える政治の季節に、対外関係での“弱気”は禁物。“中国頼み”の国家リーダーが集うG20で人民元問題を主要議題にせずに済んでも、もともと中国への対立意識が根強い米議会で今回の“妥協”に批判が高まるならば、対中姿勢を硬化せざるを得ない。

 その可能性は十分ある。

 対ドル相場の切り上げペースについては、米国の複数の大物経済学者が春先に「年内5~10%が必要」とほうぼうで喧伝していた。ところが、早くも「年内2~3%程度の上昇にとどまるだろう」との見通しが米中双方の政権中枢から漏れ伝わっている。とどのつまり、「米中政府は問題を先送りしたにすぎない」(米財務省OB)。

 ダイヤモンド・オンラインでは過去何度も人民元問題と米中軋轢に関する米国側と中国側の言い分そして識者の分析を取り上げてきた。以下に再掲した代表的な記事から、今回の“上昇容認”声明を経てもなお人民元問題の本質が何ら変わっていないことがお分かりいただけよう。

★2010年5月19日掲載
ジョセフ・スティグリッツ教授
「アメリカは中国に人民元切り上げの圧力をかけるな」

★2010年4月30日掲載
中国発レポート!中米戦略対話を前に人民元に動き
金融危機前の管理されたフロート制に戻るが
5%以上の大幅切り上げはない

★2009年11月11日掲載
中国経済のV字回復で囁かれる
「人民元基軸通貨化」の真相
―富士通総研 柯隆 主席研究員 インタビュー

★2008年6月12日掲載
中国人民元高とインフレ圧力鈍化の嘘

(ダイヤモンド・オンライン、麻生祐司)