世界に600人しかいない、資産10億ドル保有者「ビリオネア」。彼らはなぜ成功したのか。世界的コンサルティングファームPwCによる徹底調査によると、世間のイメージと実態は大きくかけ離れているという。
たとえば、成功した起業家というと「ブルー・オーシャンを開拓した」という印象を持つ人は多いだろう。しかし、調査によると8割以上のビリオネアはレッド・オーシャンで成功しているのだ。

「成功した起業家=IT業界出身」
とは限らない?

10億ドルを自力で稼いだ人の8割は<br />レッド・オーシャンで成功しているビリオネアにとって、競争の激しい「レッド・オーシャン」など存在せず、あらゆる市場は紫(パープル)に見えるという。

 街角で誰か適当な人をつかまえて、ビリオネアの名前を思いつく順に人挙げるように頼んでみよう。たいていの人が、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、グーグル社のラリー・ペイジらの名前を真っ先に挙げるはずだ。アリババ社のジャック・マー(馬雲)やフォックスコン社のテリー・ゴウ(郭台銘)の名前も入ってくるかもしれない。

 IT業界のサクセスストーリーはあまりにも有名なので、あたかも新たな業界や驚異的なイノベーションこそが富の源泉であるかのように語られるようになった。みるみるうちに花開いたパソコン業界やインターネットサービスが、それだけ印象的だったせいだろう。

 INSEAD(欧州経営大学院)教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュは、そうした未着手の市場を「ブルー・オーシャン」と名づけた。彼らの著書『ブルー・オーシャン戦略』は大ベストセラーとなり、大きな利益を生むためには他人が参入していない新たな領域を探すべきだという考え方が世の中にすっかり定着した。すでに激しい競争で血にまみれた「レッド・オーシャン」で戦うのは分が悪すぎるというわけだ。

 たしかにブルー・オーシャンという考え方は、ビジネスの一面を鮮やかに見抜いている。だがビリオネアについていえば、そうした区別にはあまり意味がないようだ。

どんなレッド・オーシャンでも
成功するチャンスは十分にある

ビリオネアに言わせれば、あらゆるマーケットは紫色だ。古いやり方のなかに新しいアプローチが入り混じり、これまでの世界が組み替えられる。

 たとえばジェームズ・ダイソンは、掃除機という定番商品の新たな形を問い続けた。そして既存の掃除機業界の人間が誰も思いつかなかったような掃除機を考案した。現代の洗練された消費者のための、洗練された掃除機をデザインしたのだ。

 実際、今回調査したビリオネアの8割は、競争の激しい「レッド・オーシャン」で成功している。といっても、実際はすみずみまで血に染まった業界など存在しない。あらゆる海は赤でも青でもなく、紫色である。すでに確立された分野にも、かならず新たなチャンスが入り混じっている

 ジョン・ポール・デジョリアは高級ヘアケア製品という競争の激しい業界に参入して成功したし、イーロン・マスクはすでに確立されていたオンライン決済という世界のなかに新たなやり方を持ち込んだ。

 インド最大の携帯電話会社バーティ・エアテル社を立ち上げたスニル・ミタルは、既存の技術をインドに持ち込んで大成功した。スパンクスをつくったサラ・ブレイクリーは、すでに大手ブランドに占有されていたジャンルで道を切り開いた。

 そしてハワード・シュルツは、喫茶店というどこにでもある商売を見事にオリジナルなものに昇華させた。

 どんなにありふれた業界にも、チャンスは十分にある。たとえまわりが敵だらけでも、勢力図を書き換えることは可能だ。何事も永遠には続かないし、どんな業界も今が完成形ではない。勝つのは、変化を味方につけた者だ

大ヒット商品は
経験豊かな人間から生まれる

 ビリオネアは既存の製品ややり方に満足せず、よりよい形を考え続ける。大ヒット商品はそうした想像力から生まれるが、何もないところから降ってくるわけではない。変化の可能性を見抜くことができるのは、現状を深く理解した者だけだ。

 インターネット時代の有名人たちは一夜にして成功をつかんだように見えるが、その成功を支えているのはたいてい経験豊かな人間だ。既存のやり方を知りつくし、そうでないやり方を想像できる人間こそが、新たなブレイクスルーを生みだすのである。

(※この原稿は書籍『10億ドルを自力で稼いだ人は何を考え、どう行動し、誰と仕事をしているのか』の第2章から一部を抜粋して掲載しています)