米金融改革に派生商品禁止が入れば民主主義の勝利ジョセフ・E・スティグリッツ
(Joseph E. Stiglitz)
2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。イェール大学教授、スタンフォード大学教授、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミスト等を歴任。現在はコロンビア大学教授。

 アメリカとヨーロッパがようやく金融規制を改革するまでに、リーマン・ブラザーズの崩壊から2年近く、金融部門の無謀な行為によって生じた世界的な景気後退の始まりから3年以上の年月がかかった。

 アメリカでもヨーロッパでも規制が勝利したことをわれわれはたぶん祝うべきなのだろう。なにしろ、世界が今日直面している危機――この先何年も続くと思われる危機――は、30年前にマーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンの下で開始された規制緩和の動きの行き過ぎによるものだという、ほぼすべての人の合意があるのだから。規制のない市場は効率的でもなければ安定してもいないのだ。

 だが、戦いは――さらには勝利さえも――苦い味を残した。この失敗に責任のある人びとのほとんどが――アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)や財務省の人びとも、イギリスのイングランド銀行や金融サービス機構、欧州委員会や欧州中央銀行、さらには個々の銀行の人びとも――自分たちの失敗を認めていないのである。

複雑な経済事項に関する信頼を
失った銀行と金融当局

 グローバル経済に大混乱を巻き起こした銀行は、必要な改革を行うことに抵抗してきた。おまけに、これらの銀行はFRBから支援を受けてきた。FRBが過去に大きな失敗をしたことや、自らが規制するはずの銀行の利益を考えていることがこれほど明白であることからすると、FRBにはもっと慎重な姿勢を取ることが求められたのではなかろうか。

 この点が重要なのは、単に歴史と説明責任の問題としてではない。多くのことが規制当局に委ねられているのである。しかも、「われわれは規制当局を信頼できるのか」という問いは未解決のままだ。私にとって、答えははっきり「ノー」である。規制の枠組みをもっと張り巡らせる必要があるのはそのためだ。通常のやり方、つまり細部を決定する権限を規制当局に委ねるやり方は、十分ではないのである。

 そうなると、もう一つの問いが浮上してくる。「われわれは誰を信頼できるのか」という問いだ。複雑な経済事項に関しては、信頼はかつては銀行家と(あれほど儲けているのだから、何か知っているに違いない、というわけだ)、たいてい(必ずではないが)市場の出身者である規制当局者に与えられていた。だが、過去数年の出来事は、銀行家は経済をガタガタにし、自行に巨額の損失を負わせたときでも、大金を儲けられるということを実証した。