国土交通省によれば、分譲マンションの数は全国に約613万戸、そのうち1981年以前の旧耐震基準で建てられたマンションは約106万戸にのぼる。そのままでは朽ちていく高経年マンションを再生させることは急務なのだが、実際には取り組みは遅々として進んでいない。何がネックで、どうすれば前に進むのだろうか。問題の背景にある法律の基礎知識を、明治学院大学の戎正晴教授に聞いた。

管理はストック維持
再生は更新が目的

戎正晴(えびす・まさはる)
明治学院大学法科大学院教授。弁護士(戎・太田法律事務所)。専攻は民事法。マンション、団地法制、災害復興法制に取り組む。阪神・淡路大震災では被災マンションの再建に尽力。国土交通省が進めるマンション耐震化やマンション建替え等の課題検討に向けた委員も歴任している。

──近年、全国でマンション管理セミナーやマンション再生セミナーが盛んに開かれており、広く関心を集めています。

 マンションの管理と再生の、それぞれを分けて考えねばならない時代になってきました。

 まず、管理とは何かといいますと、マンションのアンチエイジング(老朽化防止)なのです。良好な状態にあるマンションを、不良ストックにしないこと。そのために長期修繕計画に基づいて計画的かつ継続的に修繕していきます。

 ところが、こうしたことを定めたマンション管理適正化法は2000年にできた法律で、それ以前にはマンション管理に関する規定は何もなかったのです。

──それ以前に建てられたマンションは、長期修繕計画の概念がないままにつくられていた、と。

 はい。「築40年のマンション管理組合ですが、今から長期修繕計画をつくりたい」といったご相談をよく受けます。しかし、40年間、定期的な修繕もなく過ごしてきたマンションに、今さら計画をつくって何年もたせるつもりなのか。あまり意味がありませんよね。

 さらには、40~50年前は今のような優れた施工技術もありませんでした。その結果生じている社会的な陳腐化、耐震性能の不足は、修繕では直せません。すでに管理の範疇ではないのです。

──そうした古いマンションこそ、再生を考えねばなりません。

 今さらアンチエイジングは遅いという状態のマンションは、日本中にたくさんあります。そうしたマンションは再生に進むわけですが、再生の目的は何かというと、不良ストックの解消です。

 これを区分所有者から見れば、「財産権の更新」になります。

──価値を失った財産に、再び価値を与える手立てを講じるわけですね。再生の具体的なメニューにはどんなものがありますか?

 「改修」と「建替え」と「除却・売却」の3つです。この場合の改修は、修繕の域を超えて機能の向上を図るものです。

 管理と再生の違いは他にもあります。管理は「計画的・継続的」に行うといいましたが、再生議案は「一発で決める」もの。修繕の議案は管理組合でつくれますが、改修や建替えや除却・売却の議案は専門家の関与がないとつくれません。

 再生には必ず、専門家による議案づくりと再生に特化した融資、合意形成支援が必要になってくるのです。