日比谷公園を挟んで東京地裁の目と鼻の先、銀座にオフィスを構える中島成総合法律事務所は、企業法務全般、中でも「民事再生」案件に卓越した実績を誇る。

 同事務所が手がけた、ある伝統工芸品メーカーA社の再生を追ってみる。

会社と経営者個人の
保証債務がほぼ免除に

中島 成 代表弁護士
東京大学法学部卒業。名古屋地裁裁判官を経て88年に弁護士登録。90年、現事務所を設立。会社法、商法、民事再生法等の倒産法が専門。日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検討準備会」委員等を歴任。会社法や商法、民事再生法の著書多数

――かつては隆盛を誇ったA社だが、安価な海外製品の流入などで売上が激減。海外企業との提携を想定した再建計画を自社で検討していた。しかし、資金繰りに窮し、事業が立ち行かなくなった。

 この状況で相談を受けた中島成弁護士は、資金流出を防いで事業を継続、海外企業との提携可能性も探り続けるため、民事再生を裁判所に申立てた。しかし、A社が目論んでいた海外企業との提携は結局実現せず、このままでは事業も完全に失い、経営者個人も破綻を免れない状況に直面した。

 他方A社には、100%子会社のB社(伝統工芸品の物流を扱う。経営者はA社社長)があり、B社の最大債権者はA社だった。そこで中島弁護士は、A社が破綻を免れない状況下で即座にB社の民事再生手続も申立て、A社と同時進行で民事再生手続に入る。

 読みは、A社B社が同じ債権者集会で再生案を判断する手続ができればB社の手続にA社自身が最大債権者として参加できることだった。再生手続を監督する委員もA社と同一人物になり、B社だけでも事業を継続する意義をよく理解してもらえる。

 結果、A社(負債9億円強)は破産へと移行したものの、B社は3億円強あった負債の95%の免除を受け物流会社として存続。同時にA社、B社両社の保証人だった経営者個人は、12億円強の保証債務の99.75%を免除された。中島弁護士は、経営者個人の民事再生もA社と同時に申立て、金融機関と交渉することで保証債務の大部分が免除される再生案を可決させたのだった。

 数ヵ月後、B社はスポンサーを獲得し、B社の物流拠点を買い取ってもらい、それを賃借して事業を継続。その後順調に利益を上げ、スポンサーから物流拠点を買い戻すまでに事業を回復させた。保証債務の大部分の免除を得た経営者は、B社の仕事に携わることで再挑戦を成功させている――。

「民事再生では、債権者自身が再生案の可否を判断します。債権放棄分は損金算入でき、手続も透明で、企業の再生と経営者の再生を同時に債権者の多数決に問うこともできます」(中島弁護士)。

 金融機関としても、透明な手続を経て作成された再生案の実現可能性を自ら判断し、再生後の配当等に重きを置くのが合理的という判断が十分あり得るわけだ。

 とはいえ、利益が相反する関係者すべてを納得させるような再生案は、かんたんに立てられるものではない。

「民事再生を含む事業再生に何より必要なもの、それは誠実さです。もちろん弁護士は依頼人の味方ですが、多数の債権者や取引先等が納得する落とし所を示し、誠実に交渉すべきです。専門性も必要で、事業再生手法の選択、免除益と繰越損失・資産の再評価との関係、 経営者の個人保証への対応、債権者等への説明、利益計画の管理等、法務、財務や会計の知識、他の専門家との連携等トータルの専門性が必要です」

 同事務所では、これまで医療法人や外国人が経営する国内企業も含め、20を超える企業の民事再生をまとめてきた。

 中小企業金融円滑化法の終了後も、返済猶予のリスケは続いてきたが、今後、債権回収は加速するともいわれる。必然的に民事再生手続も射程に入れた事業再生のニーズが高まってこよう。

「事業を再生するには、専門知識や経験のあるパートナーを選び、早めの計画を立てることが大事です。特に中小企業の民事再生手続では、保証人たる経営者個人が事業に不可欠な場合も多いため、経営者個人の再生も合わせて問うべきという側面があります。その結果、大部分の保証債務が免除される例もあるのです」

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