官民一体で挑むも、苦戦する資源小国ニッポン。<br />40年ぶりの「イラク巨大油田争奪戦」の舞台裏40年ぶりの国外開放で、世界から注目されるイラクの油田。原油埋蔵量世界3位の巨大油田をめぐり、世界中の石油会社がしのぎを削って争奪戦を繰り広げている。

  いま、イラクの油田が世界から注目されている。イラク戦争後の復興資金の確保を迫られたイラクは去年、それまで国有化されていた油田を、40年ぶりに外国企業に開放したからだ。

 イラクの原油埋蔵量は世界3位。その油田のほとんどが、長引く戦乱のために開発が進まず、膨大な石油が手つかずで残されている。欧米のメジャーや新興国の国営石油会社など、世界の名だたる企業が獲得に名乗りを上げる中、日本も国をあげて獲得を目指した。

 日本が獲得を目指した油田は2つ。その1つ、ガラフ油田を狙ったのがジャペックス(石油資源開発)だ。去年12月に開かれた公開入札で獲得を目指した。

 そして、もう1つのナシリーヤ油田は、日本政府と新日本石油(現JXホールディングス)、インペックス、日揮の3社連合がイラク政府との直接交渉に挑んだ。

調査データを武器に
他国メジャーを取り込む作戦

 去年8月。トルコのイスタンブールで、4ヵ月後に予定されていたイラクの油田の入札の説明会が開かれた。世界の主要な石油会社が勢揃いする会場に、ジャペックスの鈴木副社長が現れた。

 ジャペックスは、昭和30年、石油確保のため政府の主導で設立された。日本では有数の石油会社だが、巨大油田を開発した経験はなく、世界の巨大企業と比べるとその規模ははるかに小さい。しかし鈴木が、必ず獲得できると狙いを定めた油田があった。イラク南部のガラフ油田だ。なぜこの油田なのか。

 鈴木は、90年代に当時のフセイン政権と巧みに交渉し、油田を調査する許可を取り付けた。5年に及んだ調査で、地下に広がる油田の構造についての詳細なデータなど、数多くのデータを手に入れた。このデータがあれば無駄な掘削をすることなく、確実に石油を掘り出すことができる。 

官民一体で挑むも、苦戦する資源小国ニッポン。<br />40年ぶりの「イラク巨大油田争奪戦」の舞台裏イスタンブールの入札説明会後、調査データを武器にペトロナスをパートナーに引き入れることに成功。写真左はジャペックス鈴木勝王副社長、写真右はペトロナスの幹部。

 8月の入札説明会、鈴木はこのデータを使ってある作戦に出た。データと引き替えに経験豊富な巨大企業をパートナーに引き込もうと考えたのだ。これに、マレーシアの国営企業、ペトロナスとメジャーのロイヤル・ダッチ・シェルが興味を示した。ともにジャペックスをはるかにしのぐ巨大企業だ。

「これなら開発コストを下げられる」(ペトロナス)

「我々もノウハウを提供しよう。是非、共同開発させて欲しい」(ロイヤル・ダッチ・シェル)

 交渉は成立。鈴木のデータが、巨大企業を動かした。

 実はこの交渉の裏には、もう1つ、鈴木のしたたかな計算があった。鈴木はガラフ油田の開発費用を60億ドルと見積もっていた。できるだけ投資額を抑えたいジャペックスはその4割を負担し、残りを2社に3割ずつ分担させる。こうすれば、投資額の割合はジャペックスが最大となり、「オペレーター」と呼ばれる有利な地位を獲得できるのだ。

 オペレーターは、開発計画から生産、産油国との交渉まで、すべての主導権を握る。オペレーターになることで産油国との人脈や石油開発のノウハウを手に入れ、さらなる油田獲得への足がかりを掴む。それが鈴木の狙いだった。

 12月、バグダッドで入札が始まった。ところが、会場に現れた鈴木は想定外の事態に直面していた。シェルが突然、「パートナーから抜ける」と伝えてきたのだ。別の巨大油田にも入札し、獲得できるメドがついたため、ジャペックスと組む必要が無くなったからだ。