地頭をフル回転して、根拠を示さなければならない戦略コンサルティング・ファームの面接では、「どこまでの数字の正確性を求めるか」は、志望者にとって悩ましい問題だ。このことは『戦略コンサルティング・ファームの面接攻略法』においても、ポイントとなっている。

 戦略コンサルタントが行う業務に関して、一部の人が欲求不満を感じることの1つは、その正確性が総じてあいまいだということだ。とりわけ、自分の専門分野においては精度の高い作業が通例となっている、理工系の技術者や科学者は不満を感じる。

 たとえば、土木技師と橋の建設方法について話をする場合、彼らは設計仕様書と寸分違わない厚さの鉄骨が必要だと言ってくるだろう。これとは対照的に、戦略コンサルタントとある物事が起こる可能性について話をする場合、彼らはたいてい上下35%程度の誤差を含んだおおよその数字で答えてくる。

 なぜそうなるのかといえば、コンサルティング業務におけるクライアントからの要請によるところが大きい。クライアントの多くは、「はい・いいえ」の二択で答えられる質問や、「われわれはどうしたらよいのだろうか」といった答えの範囲が広い質問を投げかけてくる。たとえば、以下のようなものだ。

─われわれは最大の競合相手と合併すべきだろうか。

─われわれは南米支店を閉鎖すべきだろうか。

─われわれは法人向けのビジネス市場に参入すべきだろうか。

─業界では価格競争が起き、多額の損失を出している。われわれはどのように対処すべきだろうか。

─新しい技術の導入は、われわれのビジネスの将来にとって大きな脅威となる。われわれはどうしたらよいだろうか。

─競合2社が合併し、われわれよりも大規模になった。われわれはどうすればよいだろうか。

戦略コンサルの面接では、<br />正確性が求められているわけではない

 多くの場合、クライアントが求めているのは「それはよい考えだと思います」「いや、それはよい案ではありません」といった、“ある程度の方向性”を示してくれる答えである。それゆえ戦略コンサルタントには通常、数学の問題を解くような正確性までは必要とされないのだ。

 たとえば、クライアントが「もし5年以内に1億ドル以上の収益を上げることが可能であれば、X市場に参入する価値がある。われわれはこの市場に参入すべきだろうか」という質問を投げかけてきたとしよう。

 そして、コンサルタントが1ヵ月をかけて分析を行った結果、X市場への参入によってクライアントは2億~3億ドルの収益が期待できそうだという結論に達したとする。経験豊富なコンサルタントであればこの時点で分析作業はやめて、クライアントに結論を提示する。

 一方、分析作業にをあと2週間をかければ、クライアントの期待収益が2.27億ドルや2.81億ドルになることがわかると仮定しよう。数字の正確な計算に慣れ親しんでいる人は、より精緻な結論を得るためにこの2週間の追加作業を行う傾向が強いが、これは間違いである。

 クライアントは、将来の収益が正確にいくらになるかを求めているのではない。5年以内に1億ドル以上の収益を上げられるかどうかさえわかれば、彼らのニーズは十分に満たされるのだ。

 この例では、“きっちりと正確な”数字を出すために6週間の作業を要するのに対して、“ある程度正しい”数字を得るための作業は4週間ですむ。戦略コンサルタントにはこのような取捨選択が日常的に求められる。だからインタビュアーは、“ある程度正しい”答えを割り切って出せないタイプの志望者を、採用候補から落としていくのである。

(次回は、4月20日公開予定です)