現金はいつも僕たちの価値判断を狂わせる。ファイナンス理論に従えば圧倒的に不利であるにもかかわらず、「60歳の満期時には1000万円がもらえる生命保険です」などと言われると、つい気になってしまう人も多いのではないだろうか? 正しく価値を見抜くためのファイナンス理論の基本を『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』で押さえておこう。

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投資の前に知っておきたい
ボラティリティの考え方

前回の記事では、ファイナンス理論における「ボラティリティ」の概念について確認した。

ボラティリティ(変動率の標準偏差)がわかれば、自分が投資している商品のリスクがわかる。具体的に言えば、「一定期間にどれだけ損をどれだけの確率で被るか」を事前に把握しておくことができるのである。

僕たちが知っている代表的な投資商品のボラティリティは次のとおり。

・ドル円 9%
・日経平均 26.3%
・トヨタ自動車 30%

あなたがドルに投資した場合、1年後にマイナス9%(1標準偏差)以上の損を被る確率は15%(=(100-68.27)÷2)以下である。この計算は1標準偏差から下方に外れる確率だ。

また、マイナス18%(2標準偏差)以上の損失を被る確率は2%(=(100-95.45)÷2)しかないことも事前にわかる。リスクは時間の平方根に比例するので、2年後であれば12.7%(=9%×√2)以上の損失を出す確率が15%程度になる。

2016年2月にドル円相場は120円近辺から110円まで大きく円高に振れた。変化の幅はマイナス8.4%だが、これがどれほどの異常事態だったのかも、ボラティリティから知ることができる。