一流大を卒業しても
労働市場で認められない人たち

労働市場で認められない「一流大卒業者」の深い劣等感同じ一流大を卒業しても、仕事で劣等感を抱く人とそうでない人の違いは、どこにあるのだろうか

 本連載は15回を超え、連載として折り返し地点を過ぎた。今回は、一流大学を卒業したにもかかわらず、社内外の労働市場で認められない人たちが抱え込む「学歴病」の原因について考えたい。こうした人たちの学歴病は症状が深刻であり、周囲の社員にも悪影響を与えることがある。その意味で、連載の折り返しにふさわしいテーマと判断した。

 筆者の観察では、現在の境遇に何らかの不満や負い目、劣等感などを持っていると思われる人たちは、学歴の話題に敏感に反応する傾向が強いように思う。とりわけ「過激」と思えるほどに反応するのが、次に挙げる2つのカテゴリに属する人たちである。

 カテゴリの1つは、一流の大学を卒業しながら、新卒や中途の採用試験で「一流」と言われる企業の内定を掴むことができなかった人たちである。いわば、社外の労働市場で認められなかった人たちだ。このタイプは、特に30代前半までの年代に多く見られる。

 もう1つのカテゴリは、一流大学を卒業し「一流」とは言えない会社に在籍しているものの、自分の属する会社を「そこそこの会社」「入社の難易度は高い」などと、事実をねじまげて誇張したりするなど、自らを言いくるめて生きている人たちである。このタイプには、30代後半以上で昇進・昇格のスピードが同世代の中で平均以下の人が多い。

 これら2つのカテゴリに属する人たちの事例は、筆者の周囲には数え切れないほどあるが、できるだけ広い視点で捉えて分析したい。

 そもそも一流大学出身者は、今の待遇、社会的な地位、収入などに満足している人であれば、学歴の話に敏感に反応することはほとんどない。これまでこの連載では多くの人を取材してきたが、その中から一例を挙げよう。

 通常の取材は、筆者がまず電話をして趣旨を伝え、交渉する。10人ほどに交渉して3~5人は承諾してくれる。ところがこの連載に関する取材は、通常の取材と比べて断われることが多い。主旨を話しても、10人のうち1~2人しか承諾してくれない。筆者の25年ほどに及ぶ取材経験から言って、成功する「確率」がここまで低い取材依頼は珍しい。

 最も多いのは、東大・京大出身者だ。たとえば昨秋、東大医学部を卒業した40~60代の3人の医師に取材を交渉し、断られた。いずれも、「(テーマに)関心がない」「あえて(取材に)応じるようなものではない」といった回答だった。わずか30秒ほどで電話を切られたこともある。数年前、それぞれの専門分野である「がん」「検死」などをテーマにした別の取材で依頼をしたときは、話が途切れることがなかったにもかかわらず、だ。

 京大の経済学部出身で、大手の海運会社の関連会社の社長をしていた、60代後半の男性からも断りを受けた。数年前に「日本企業のアジア進出」をテーマに取材依頼をしたときとは、違う態度の受け答えだった。