サントリーホールディングスの業績が好調だ。

 サントリーが8月5日に発表した2010年6月中間期決算では、売上高は前年同期比11.2%増の8129億円、営業利益は47.9%増の410億円。いずれも中間決算の過去最高を更新した。

 サントリーはキリンホールディングスと昨年7月に経営統合の本格交渉に入ったが、統合比率や経営の透明性に関する主張の食い違いが原因で今年2月に統合案は破談となった。最後は両社のトップ同士が批判しあう後味の悪い結末でサントリーの“ツキ”が落ちたと思われたが、実際は憑き物が落ちたような快進撃を見せている。

 というのも好決算の背景にはウイスキー、ビール、清涼飲料の主力3事業で“追い風”が吹いたことがある。もちろん、それぞれの市場でサントリーの戦略が当たりまくったことも見逃せない。

 ウイスキーなどのスピリッツ事業では、ハイボールブームが追い風となった。そもそも、このブーム自体サントリーが2年前から仕掛けたもので、ここへきて本格化したものだ。特にハイボールの原酒となる「角瓶」の販売量は前期比で68%も増加。安定供給のために今夏から出荷調整を開始したほどの売れ行きだ。サントリーの思惑どおり、ハイボールを入り口として、「響」「山崎」「白州」などの高価格ウイスキーへも消費者が手を伸ばすようになってきており、ウイスキー全体で同26%の伸びを記録した。

 ビール事業では、大手メーカーでは唯一出荷量を増やし、サントリーとしては上期で過去最高となる13.4%のシェアを獲得した。縮小するビール類市場の中では、安価な新ジャンル(第三のビール)と、贅沢仕様のプレミアムビールだけが成長する二極化が進行中だが、サントリーは第三のビールでは「金麦」、プレミアムビールでは「ザ・プレミアムモルツ」のブランド育成に成功。もともとサントリーはビールが弱かっただけに、伸びシロが大きかったこともあるが、消費の二極化をとらえたマーケティングの勝利である。

 食品事業では猛暑が清涼飲料の販売を後押しした。「ペプシネックス」も今年の炭酸ブームとゼロカロリーブームで6%伸ばした。

 主力商品の「BOSS」や「なっちゃん」は味のリニューアルが成功して、春ごろから伸びた。昨年末にニチレイから買収した「アセロラドリンク」も買収前の2倍の売れ行きを見せている。清涼飲料市場が前年比2%マイナスと推定される中、サントリーは同1%増と善戦。他社が市場縮小の打開策として新商品点数を絞ったり、価格競争を避けたりする戦略を打ち出しているなか、その隙を突くようなアグレッシブな営業戦略も功を奏した。

 海外事業では子会社のシンガポールの健康食品メーカー「セレポス パシフィック」が現地での健康ブームを追い風に売上げを伸ばし、昨年11月に買収したブランスの清涼飲料メーカー「オレンジーナ シュウェップス」が連結対象となった結果、売上高が76.3%の大幅増となった。 

 波に乗ったサントリーは通期では売上高1兆7430億円、営業利益1030億円といずれも過去最高を見込む。「景気の先行きが不透明なことが懸念」(千地耕造・執行役員経営管理本部長)としているが、今夏の猛暑が飲料や酒類の需要を後押しすることは確実だ。

 実際、今月3日から発売したノンアルコールでカロリーと糖質もゼロのビールテイスト飲料「サントリー オールフリー」は出だしから予想の約2倍の売れ行き。追加注文が殺到して供給不測となり、サントリーは発売1週間で販売休止に追い込まれるなど、その勢いは継続中だ。

 思い起こせばキリンとの経営統合計画も、人口減で頭打ちの国内市場での過当競争を脱し、規模を拡大して出遅れた海外市場を攻めないといけないという中長期的な危機感が背景にあった。

 追い風やヒット商品に恵まれサントリーは好業績を残したが、中長期的に抱えた課題へ解決の道筋が見えたわけではない。好業績で積み上がるキャッシュをどのように振り向けるのかが問われることとなる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)