BBC、ワーナーなど世界の一流企業でコーチングを行ってきた著者が、その手法を徹底解説。一瞬で「やる気」を手に入れるための8つの方法とは? 『瞬間モチベーション』よりモチベーション低下に悩む人に役立つコンテンツを公開していきます。第5回は一般的にモチベーションを上げると思われている“目標”が、パフォーマンスを下げる要因となることについてです。

目標設定がモチベーションを下げる?

目標は、方向性を示す役に立ちます。私たちが脱線するのを防ぎ、優先順位をつけるときの助けにもなるでしょう。目標は、進捗状況を確認する目安になりますし、多くの人にとっては、モチベーションにもなるでしょう。でも、目標は、私たちが生まれながらに持つ知恵やモチベーションを押さえつける恐れもあります。

目標そのものは悪くありません。問題は、私たちが目標達成を、自分の幸せや心の健康の条件にしてしまうことです。よし、やってやるぞと思ったけれど、実際にやってみたら目標は達成できなかった。でも、まあいいや――。そんな風に思えるものは、そもそも目標とは呼べません。あるいは、実現できたら絶対ハッピーになれると思ったのに、その目標を達成しても、ハッピーでもなんでもなかった――。目標を自分の幸せの条件にすると、そんな困惑するような状況が生まれることがあります。

結果を出す人が目標を設定しない理由

最近、格好の例を聞きました。ある同僚は長年、住宅ローンの返済に苦労していました。ローン返済のために多くのことを我慢していたので、完済した暁には、さぞかし嬉しいに違いないと思っていました。ところが実際に完済してみると、即座に何が変わるわけでもなく、特に幸せな気持ちにもなりませんでした。「何も変わらなかった。ただ手元に残るお金が増えただけだ!」。

仕事も借金返済を最大の目的にしてきましたから、やる気がなくなり、仕事の張り合いもなくなりました。朝起きるのがつらくなり、毎朝、「今日こそもっと幸せになるに違いない」と期待しましたが、決してそうはなりませんでした。でも、そこで彼は突然気がつきました。幸せは、自分の内側の問題なのだということに。そして、これからは朝起きた瞬間に幸せな気持ちになろうと、心に決めました。以来、彼はずっとそうやって生きているそうです。

目標や野心を、自分の達成感や幸福感の条件にしてしまうと、私たちは、すでに自分が持っているものを取り去ってしまいます。いい気分は、実績や成果によって得られるものだと考えてしまうと、自分の外にある未来の目標に意識を集中することになりかねません。

明日、来月、来週など、未来に関する思考で頭がいっぱいになると、人生のフローを逃してしまいます。今という瞬間を逃してしまうのです。でも、私たちが持って生まれた心の明晰性や健康が存在するのは、今という瞬間です。思考と思考の間にある静寂なスペースです。