「今日は苦しくても、あさってには、いいことがある」
80歳、現役・女社長・今野由梨が送る、人間関係・人生・仕事・お金・幸せ・病気・男女・子ども、の悩みが力に変わる「メッセージ」。
孫正義氏推薦の著書『だいじょうぶ。』より、抜粋&編集して、お届けいたします!

大人があれこれ口を出さずに、
子どもに、たくさんの失敗経験を積ませること

親が「子どもの宝物」を奪っている!<br />子どもにしてやれる最良のこととは?今野由梨(こんのゆり)
ダイヤル・サービス株式会社代表取締役社長。
1936年三重県生まれ。津田塾大学英文学科卒業。1969年ダイヤル・サービス株式会社の設立にこぎつけ、日本初の電話育児相談サービス「赤ちゃん110番」を立ち上げる。
1985年情報化月間「郵政大臣賞」受賞。
2007年日本の経済社会への寄与による勲章「旭日中綬章(きょくじつちゅうじゅしょう)」を受章。
政府「税制調査会」、内閣府「生活産業創出研究会」、金融庁「金融審議会」など、過去に44の審議会の公職歴をもつ。

 人の心は、「ものごとに触れた経験」で変わります。仕事でも学校でも、「ものごとに触れさせてみて、人の心を変える」ことが本来の教育のあり方です。

 ところが最近では、親や先生が、必要以上に子どもの社会に介入し、「ものごとに触れる機会」を奪っている気がします。「心配」や「配慮」といった美名のもとに、子どもたちが体験すべき宝物を奪い取っているのです。

 私は男勝りだったので、小学校のころは、男の子ともよくケンカをしました。妹がイジめられて、泣いて家に帰ってくると、靴も履かずに、一目散に飛び出し、妹を泣かした相手に噛みついたり、引っ掻いたり……(笑)。

 久しぶりに同窓会に出席した際、ある級友は「これは今野さんに噛まれた傷だよ~、ハハハッ」と言って笑い、もうひとりの級友は「こっちは今野さんに引っかかれた傷。一生消えない思い出だよな〜、アハハッ」と言って、嬉しそうに傷跡を見せてくれました。

 子ども時代の一生消えない傷は、一生消えない「勲章」であり「絆」でもあるわけです。

 当時の私たちには、子どもなりの「オキテ」がありました。やられても、やりかえしても、絶対に「大人に言いつけない」「誰にやられたか言わない」のがルールでした。

 私が川で溺れかけたときも、崖から落ちたときも、井戸の中に落っこちたときも、みんなが助けてくれ、大人に内緒にしてくれました。親や先生に知られたら、私が怒られてしまうからです。

 子ども同士、みんなでかばい合い、助け合い、親に知られないところで「経験値」を積み重ねながら、連帯感や親近感を高めていったのです。

かつての子どもたちは、自らルールをつくり、そのルールを守ることで、仲間意識や信頼を育んできたはずです。そして、その子どもたちが大人になって、その経験値を生かして「地域社会」をつくってきました。

 高度経済成長期、以前の、「向こう三軒両隣(むこうさんげんりょうどなり)」といった濃密な近所づきあいは、子ども時代に培った相互理解や連帯意識の延長にあると解釈できます。
 それなのに今の大人たちは、「子ども社会のルール」を奪っています。経験値を積む機会を取り上げています。

 今の時代は、「ケガと弁当は自分持ち」が通用しない風潮です。だから、学校も「危ないこと」は、いっさいやらせません。「責任」を追及されたくないからです。
 しかし「少しでも危険があることは、やめましょう」では、何も経験させることはできません。

 人間は生まれたそのときから、「今の自分にはできないこと」への挑戦を繰り返して成長していきます。できるようになる過程では、心も体も「傷ついては癒される」のくり返しです。

 大人から見たら、危なっかしくて見ていられないときもありますが、「あまりに多い手助け」は、子どもの自立心と、好奇心の種を奪ってしまうことになります。

 子どもは、やがて親の元を離れ、「自分の力」で自分の人生を生き抜かなければなりません。そのためには、「親が、不用意に、子どもの失敗を取り上げないこと」です。失敗を重ねながらも、自分で困難を乗り越える経験を、親が子どもに与えるべきなのです。

大人ができることは、あれこれ口を出さずに、深い愛で見守り、子どもに、たくさんの失敗経験を積ませることです。子どもが自分で成長していくのを待つことです。

「それをしたら危ない」「それをしたら傷つく」「それをしたら勉強がおろそかになる」と心配になるのもわかりますが、親や先生が先回りをして指示をしすぎたり、ストップをかけすぎたりしてしまうと「自分で考え、行動する子ども」は育ちません。

「手をかけずに、心をかける姿勢」こそ、子どもの自立をうながすのだと思います。