データ偽装を行った三菱自動車、粉飾決算を行った東芝。名門企業の優秀な社員のもとで、なぜ不正は起きたのだろうか? これまでも食品偽装から、東京オリンピックの不明瞭な運営まで、日本的な組織の病根が明らかになるたびに引用される名著『失敗の本質』。戦後70年たった今も変わらない日本的組織のジレンマを、14万部のベストセラーとなった『「超」入門 失敗の本質』の著者が読み解く。特別寄稿。

不祥事が続き社会に衝撃を与える日本企業、
その組織的病根とは

 2015年の春から現在まで、東芝と三菱自動車という日本を代表する大手企業について多くの報道がなされました。東芝は不適切な会計処理が、三菱自動車は軽自動車の燃費試験データの不正が発覚したのです。東芝はこの問題が発覚したことで、田中氏、佐々木氏、西田氏の歴代3社長が辞任することになり、三菱自動車は益子会長が辞任、現在は日産自動車より2000億円以上の出資を受け入れ、日産の傘下になる方向で調整が進められています。

 東芝は創業1875年(創業者:田中久重氏)、140年を超える歴史を持ち、現在は日本国内の総合電機メーカー2位の地位にあります。三菱自動車は、創業1870年(創業者:岩崎弥太郎氏)の名門三菱から1970年に自動車部門が独立して設立され、2000年代のリコール問題からようやく立ち直ったと言われた矢先の不祥事でした。

 私たちが2社の不祥事報道で感じるのは、なぜこのように問題が巨大化するまで放置され、小さな規模のときに是正されなかったのか?ということです。会計処理、燃費試験の不正は、社内で早期に問題に気づいた人たちが必ずいたはずなのに、です。

 2社は長い歴史と伝統を誇る、日本の名門企業です。一般的に名門かつ規模の大きい企業には、優秀な学生が応募し人材の層を成していきます。優秀な人たちが集まってつくられた組織にもかかわらず、なぜ致命的な問題が長期間にわたり放置され、会社の存続を揺るがす大問題になるまでの膨張を許してしまったのでしょうか。

日本の巨大組織に付きまとう、
大きな2つの失敗要因

 日本的な巨大組織を語るときに、避けて通れない存在があります。約70年前、戦前に日本最大の組織だった日本軍です。1937年の日中戦争から、1941年12月の真珠湾攻撃で始まる太平洋戦争、そして1945年の敗戦まで。当時、日本最大の組織だった日本軍は急激な膨張をしたのちに、ほぼすべての戦力を失うまで敗北を重ねます。最後は広島と長崎に原爆が投下され、1945年の夏に敗戦を迎えました。

 日本軍の組織論的研究をまとめた名著『失敗の本質』(野中郁次郎他著)は、発刊から30年以上経て、現在も多くのビジネスパーソンに読み継がれている書籍ですが、その中で現在にも通じる2つの失敗要因を取り上げてみたいと思います。

【『失敗の本質』が指摘した失敗要因】
●空気の支配(戦略上の失敗要因の1つ)
●人的ネットワーク偏重の組織構造(組織上の失敗要因の1つ)

 合理的思考ではなく、空気に組織内が支配されてしまうと、理性ではなく情緒によって判断がされてしまう。人的ネットワークを過度に重視した組織構造では、合理的につくられているはずの組織の中で、非公式の人間的なつながりによる意思決定が強力に機能してしまう。結果として、間違いがいつまでも是正されず、膨らみ続けて致命的な失敗・敗北を生み出してしまうのです。

「インパールで日本軍と戦ったスリム英第一四軍司令官は、「日本軍の欠陥は、作戦計画がかりに誤っていた場合に、これをただちに立て直す心構えがまったくなかったことである」と指摘したといわれる」(『失敗の本質』より)

 空気の支配と人的ネットワーク偏重の組織構造。優秀なはずの人たちの集団に、2つの要因が巨大な破たんを引き起こすメカニズムを考察をしてみます。