昇進したり新しい顧客を担当するなど、新しい役割を果たすことになった時、できればうまくやりたいと思いますよね。うまくやりたいと思った時、みなさんはどんなアプローチをとるのでしょうか。いままでにうまくいった自分なりのやり方でがんばったり、先輩のやり方を真似したり、なかには本屋さんで見つけた“ノウハウ本”に書かれていることを試してみる人もいるかもしれません。でも、そうした取り組みのほとんどは自分が知っていることの延長なので、いろいろ試行錯誤して工夫をしても実は、それまでと大きく変わらないことが多いのです。マッキンゼーの人材育成責任者として実践し、BBT大学の講座で人気の著者が、普通のビジネスパーソン向けに書いた『はじめての問題解決力トレーニング』から、エッセンスを紹介していく連載、今回からダイエットを題材に問題解決のポイントを解説します。

 何だかうまくいっていない、どうしたらいいだろうかと迷った時は、どうすべきかを考える前に、まず、何が問題になっているのかを発見しなくてはなりません。問題が何かが理解できて初めて解決法がわかって、有効な打ち手が見つかります。

 うまくいっている例を真似すれば自分も成功すると思い込んでいる人が多いようですが、それは錯覚です。抱えている問題が同じならうまくいっている方法を真似ればよいでしょうが、そうでない場合には正しい対策にはなりません。

 まずすべきことは、問題がどこにあるのか、どんな解決法が考えられるのか、ざっくりと見当をつけること、つまり“あたりづけ”です。そのためには事実を理解することが必要です。思い込みや経験から判断するのではなく、虚心坦懐に、“いま起こっている事実の世界”を見つめるのです。その際に絶対に欠かせないのが、数字で問題を押さえることです。

 たとえば、みなさんダイエットや体重の話は大好きなので、お天気と同じように話題にのぼることが多いようです。

事実が見つけられない人は、<br />ダイエットもままならない

「このごろ、太って困っているんだ。いよいよ禁断の3ケタ台に近づいてしまって……」
「それはまずい。でも、そうは見えないですよ」
「あれ、ちょっと痩せました?」
「そうなの、糖質オフのダイエットが効くのよ~」

 こんな、何でもない会話をしたことはありませんか。単にコミュニケーションを楽しむための会話ならこれでよいのですが、真剣に捉える場合は、問題を客観的に理解するためのデータが必要になります。

 最近太ってきた(ズボンがきつい、歩くのがおっくう)という問題認識があった場合、それを判断するための「材料(事実)」は何になるでしょうか。この場合、重要な事実は体重です。それも直近だけでなく、過去との比較が必要になります。ほかに、筋トレの成果で筋肉量が増えて健康的に体重が増加することもあるので、体脂肪率や目立つ部分のサイズなどもよい材料となります。

 これらの事実を把握することで、抽象的な議論に陥ることなく、具体的にどれだけ体重が増えたのか、それはどれくらい深刻な問題なのかが理解できます。

 具体的な事実を押さえないまま印象だけで話をしていると、「そんなに太っているようには見えませんよ」と問題をうやむやにする方向に会話が進んでしまったり、思いつきで「こんなダイエットがはやっています」

 と、解決のアイデア先行の議論になってしまったりします。これは企業においても同じで、事実にもとづいて(わたしたちはこれを“事実ベース”と言います)状況を押さえることで、何が問題なのかを理解するための入り口に初めて立つことができるのです。

(次回は、5月25日公開予定です)