『好きなようにしてください』を読んだ人事部門で働く読者が、著者の楠木氏と語る座談会中編(前編はこちら)。制度をつくることに終始したり、他社の事例を追いかけたり…。人事に対して楠木氏が抱くイメージを、実際に人事部門で働く3名にぶつけます。楠木氏のイメージを覆す意見に注目です。(撮影・鈴木愛子、構成・肱岡彩)

ターゲット従業員はだれか

人事部は「人事屋」になってはいけない楠木建
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。 著書に『ストーリーとしての競争戦略』『「好き嫌い」と経営』『「好き嫌い」と才能』(すべて東洋経済新報社)、 『戦略読書日記』(プレジデント社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。

楠木 僕は、佐藤さんのサイバーエージェントは、傍から見ているだけですけど、わりと、「好きなようにしてください」全開で、いろんな会社の制度が回ってるように思うんです。

佐藤 そうですね。これまでの話(前編参照)をお聞きしていて、前さばきはしているなと感じました。それゆえに、入った人のタイプが似ているかもしれません。だから、いろんな制度をやっても、回っているんだなと思います。「無駄な制度」という観点があまりなかったなと、楠木さんの発言を聞いた瞬間に思ったんです。

 特に前さばきに当たる採用はこだわっているんです。まず、ビジョンである「21世紀を代表する会社を創る」に共感したり、おもしろそうだなと思ってくれるのが絶対条件。その上で、”素直でいいやつ”を採用しています。そこを徹底していますが、基準はそれだけなんですよね。

 だから、採用面接官も、何を聞いてもいいんです。面接マニュアルも何もなくて、ただ自分と一緒に働きたい、素直でいいやつを見つけてほしい」っていうのが、人事からのオーダーなんです。

楠木 いま、サイバーエージェントでうまく回っている人事のやり方とか、仕組みとか、制度っていうのを、全然違う会社に持って行ったら、最悪の制度になるかもしれない。逆もまた真なり、ですね。

人事部は「人事屋」になってはいけない佐藤修一
サイバーエージェント勤務。2002年に入社後、広告営業や子会社人事などを経て、現在は人事部門にてキャリア採用を担当。人事歴は5年目になる。

佐藤 そうですね。

楠木 僕はもともと、競争の戦略っていう分野で仕事をしていますが、競争戦略の一丁目一番地は、誰に愛されるか。イコール、誰から嫌われにかかるかっていうことを自分で定義しましょうということなんです。

 全員喜ばせようと思うと、誰も喜ばない。誰かが喜ぶと、誰かに嫌われることになる。マーケティングの世界では、そのような理解は、ごく常識ですね。「ターゲット顧客」の定義から始まる。

 従業員もまったく同じで、ターゲット従業員みたいな考え方がとても大切。全員にとっていい会社なんてあり得ない。