>>(上)より続く

 あとは直樹さんが元妻に支払っている養育費、慰謝料を切り詰めるしかありませんが、例えば、養育費を半減してもらい(毎月10万円から5万円へ)、さらに慰謝料は免除(毎月3万円から0円)してもらえば、ようやく家計はトントンに落ち着き、父親が退院した後に発生するであろう赤字を前もって食い止めることができます。

 何はともあれ、直樹さんが元妻と話をしなければ始まりませんが、直樹さんは離婚してから3年間、元妻に全くといっていいほど連絡をとっていませんでした。離婚するほど仲が悪いわけですから当然といえば当然ですが、このまま放置しておくと上本家の家計が赤字まみれの惨状になるのは確実です。

 背に腹は代えられないので、直樹さんは勇気を振り絞って元妻へメールを送り、アポを取り、直談判の場(喫茶店の会議室スペース)へ足を運んだのです。そこで直樹さんは離婚から現在までの一部始終、そして父親の病状を伝えた上で養育費や慰謝料の見直し案を提示しました。

「そっちの勝手でこっちを巻き込まないで!お父さんが倒れなければ養育費や慰謝料を減らさずに済んだでしょ?ダメならあきらめればいいじゃない!」

 そんなふうに元妻は怒りの感情を前面に出して、まるで父親(元妻にとっては義父)はこのまま息を引き取ってくれた方が好都合だと言わんばかりの勢いだったようで、直樹さんは開いた口が塞がらなかったそうです。

離婚時に交わした覚書で
養育費・慰謝料の支払条件の見直しは100%なし

 正直なところ、直樹さんは元妻を説得するにあたり、少し楽観していたところがありました。直樹さんと元妻は6年前に結婚し、当初は普通の夫婦でした。もし、元妻と父親との関係が険悪で、父親が離婚の原因を作ったり、離婚の協議に介入して、元妻が父親に対して今でも嫌悪感や不信感、恨み辛みを抱えているのなら無理もないでしょう。しかし、直樹さんの目には元妻と父親の関係は特筆すべきエピソードはなく、可も不可もない感じで、「うまくやっている」ように映っていたようです。

 元妻が父親の病状を目の当りにすれば「当然のように同情してくれるはず」と直樹さんは思い込んでおり、「大変だったね。それなら(養育費や慰謝料の減額は)しょうがないね」と元妻は二つ返事で応じてくれると完全に侮っていたのです。

 しかし、前述の通り、いざ蓋を開けてみれば悪い意味で真逆でした。このように直樹さんは1回目の話し合いでケチョンケチョンにされ、返り討ちに遭ったのですが、2回目は甘っちょろい想像の世界は捨てて、気を引き締めて臨まざるを得なくなりました。

 そもそも父親が心筋梗塞で倒れるという事態は完全に不慮であり、直樹さんには何の落ち度もありません。あくまで今現在の経済状況、家族構成だけをもとに現状に即した条件に補正すべきだと直樹さんは強調したのですが、元妻は直樹さんの話を聞いてか聞かずさらに畳み掛けてきたのです。