「責任者がいない組織」で、なぜうまくいく?

つねに新しいコンテンツと面白いサービスを生み出すウェブクリエイター集団、面白法人カヤック・柳澤大輔氏(代表取締役CEO)と、1000人以上のトップリーダーを取材してきた藤沢久美氏による対談。

藤沢さんは、発売3ヵ月で5万部を突破した『最高のリーダーは何もしない』の企画段階から、ビジョン型のリーダーの代表的な人物として、柳澤さんについて語っていたという。

柳澤さんは「面白法人」の経営者として、どのようにビジョンを現場に浸透させているのか。また「経営理念オタク」を自称する柳澤さんは、さまざまな企業の経営理念をどうウォッチしているのか。全3回にわたってお届けする連載の第2回。(聞き手/藤田悠 構成/前田浩弥 撮影/宇佐見利明)

▼前回の記事▼
リーダーはもっと「言葉」にこだわったほうがいい(第1回)
https://diamond.jp/articles/-/92497

責任者がいない?
ホラクラシー経営とは

「責任者がいない組織」で、なぜうまくいく?柳澤 大輔(やなさわ・だいすけ) 面白法人カヤック代表取締役CEO
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。
1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、鎌倉からオリジナリティのあるコンテンツをWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場に発信する。ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給)や、ワークスタイル(旅する支社)を発信し、「面白法人」というキャッチコピーの名のもと新しい会社のスタイルに挑戦中。2015年株式会社TOWの社外取締役、2016年クックパッド株式会社の社外取締役に就任。
著書に『面白法人カヤック会社案内』(プレジデント社)、『アイデアは考えるな』(日経BP社)などがある。

【柳澤大輔(以下、柳澤)】ダイヤモンドメディアという会社が実践している「ホラクラシー経営」というものがあるんですよ。これ、今熱いんです。アメリカのザッポスの経営もホラクラシー経営の分類に入るらしいんですけど。

【藤沢久美(以下、藤沢)】ホラクラシー……?どういう意味なんですか?

【柳澤】ピラミッド型の反対で、分散型・非階層型のクラスタというような意味です。ここは30人くらいの会社で、給料も全部自分たちで決めているそうですよ。

【藤沢】給料を全部自分たちで?

【柳澤】そう。そのほかに、理念は何もないんですよ。でもいろいろ話を聞いていると、その「給料を自分たちで決める」というプロセスがもう、理念そのものになっている。それをずっとやってるから、そのプロセスが苦痛ではない人だけに自然になるし、肩書もなく、責任者も不在。究極の経営スタイルですよね。

【藤沢】でも、リーダーはいる?

【柳澤】リーダーはいるんです。うちもなんか似たようなところがあって、そこが矛盾しているようなのですが。たとえば何かあって「責任者は誰だ」っていうときに、責任者は全員ですと応えることを目標にしている会社なんです。でも、もともと誰か1人に責任があるということでは本来ないと思うのです。そしてこれは言い換えると、誰がキーマンなのか明確じゃないという組織ともいえて、だから中途で入った人は、誰に何を言えば物事が動くのかさっぱりわからなくて、戸惑うみたいですね。

【藤沢】それって、どうしたら物事が動くんですか?

【柳澤】なんとなく動くっていうか……これが不思議なもので。

「責任者がいない組織」で、なぜうまくいく?

【藤沢】それって、すごく興味深いですね。たとえば日本の官僚や霞が関組織って、責任者不在で、それが悪を生んでいるというイメージがあるじゃないですか。でも、もしかしたら昔は、責任者不在の霞が関ってすごくうまく機能してて、それが今通用しなくなっているだけなのかもしれない。だけど一方で、カヤックさんのようにうまくいっている会社もあるっていう……この境目は何なんでしょう。

【柳澤】うーん。その会社の文化をつくっているものに核心がある気がしますね。それを紐解いていくと面白い気がします。カヤックなら「ブレスト」、ダイヤモンドメディアさんなら「給料を自分たちで決める」ってことだと思います。

【藤沢】具体的なディシプリンがある。宗教みたい。

【柳澤】宗教だと、聖書とかお経のような言葉なんだけど、必ずしもそうじゃなくていいんですよ。任天堂も社是がないっていうじゃないですか。でも、やはり「何か」があるはずなんですよね。だから、必ずしも言語化しなくてもいいっていうことですよね。