社会保険料ってなんでこんなに高いの?」
「安くできる方法ってないの?」
「どんな時に、どんな給付がもらえるの?」
「細かい話はいいから、重要なことだけ知りたい!」


そんな社会保険にまつわる素朴な疑問や不満を、ストーリー形式で解決していく本連載。

第10回は、もしものときに役立つ労災保険の知識。給付を受けられる災害と受けられない災害の「境界線」を教えます。

(書籍『いちばんわかる! トクする! 社会保険の教科書』より抜粋)

労災がおりるケガ・おりないケガ
労災がおりるケガ・おりないケガ

佐藤さん前回のレクチャーでは、労災保険で受けられる給付の種類に驚きました!

松島先生:そうでしょ。だから、知っておかないと損なんですよ。今日は、「業務災害」の具体的な給付条件について説明していきますね。

労災がおりるケガ・おりないケガ

労災指定医療機関ならタダで治療を受けられる

松島先生:それではまず、上の表のいちばん上、「療養(補償)給付」の内容からいきましょう。

佐藤さん:これは、労災認定されたケガの医療費を出してもらえるって話ですよね?何%出してもらえるんですか? 8割くらい?

松島先生:いや、本人負担はゼロ。無料ですよ。労災指定医療機関なら、一度書類を提出すれば、そのケガや病気についてはずっと窓口での負担なしに治療が受けられます。

佐藤さん:そ、そうなんですか!知らなかった……。

 労災保険の「療養(補償)給付」は、労災病院や労災指定医療機関で必要な療養が受けられる給付です。一度、「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出すれば、そのケガや病気についてはずっと給付が受けられます。

 請求書の提出は病院などの窓口に出せばOKで、最終的には管轄の労働基準監督署に届くしくみです。ですから労災保険を使う場合は、労災指定医療機関などで受診するほうが後々の手続きが簡単になります。

 もっとも、労災指定のない病院などで受診せざるをえない場合は、必要な療養の費用の支給を受けることができます。いったん治療費を自費で払い、あとで療養の費用請求書を労働基準監督署に提出すると、治療費の分が振り込まれるという給付です。労働災害の場合は、健康保険を使ってはいけません。
 

労災がおりるケガ・おりないケガ

松島先生:と、いうことは、病気で倒れるなら、家で倒れるより、通勤途中か会社で倒れたほうがトクですね。

松島先生:物事を損得で考えるのは、ビジネスマンとしては立派だけど、佐藤さんは度を過ぎてますねぇ……。というか、それだと、おそらく労災保険は使えませんよ。

佐藤さん:えっ、どうしてですか?

松島先生:たぶん「業務上の疾病」にあてはまらないからです。

田中社長:労災の認定はなかなか厳しいんだぞ。裁判なんかでもよく話題になるだろう。

 労災保険でいう「災害」は、仕事によるケガや病気=「業務災害」と、通勤による「通勤災害」に分けられます。

 このうち業務災害には、会社の仕事(業務)を原因として負ったケガ(負傷)、病気(疾病)、または死亡があります。業務と、ケガ・病気・死亡との間に一定の因果関係があるときに「業務上の○○」と呼ぶのです。

 つまり、業務(会社の仕事)と因果関係がある「業務上の負傷・疾病・死亡」でないと業務災害とならず、労災保険給付の対象にならないわけです。

 ですから、たとえ倒れたのが会社でも、業務と因果関係がない病気は労災保険給付の対象になりません。逆に、倒れたのが家や通勤途中でも、業務と因果関係がある病気であれば、業務災害になります

労災がおりるケガ・おりないケガ労災が認定される条件とは?


 次の3つの要件が満たされる場合には、原則として業務上の疾病と認められることになっています。

★業務上の疾病と認められる3つの要件

(1)労働の場に、有害な化学物質、身体に過度の負担がかかる作業、病原体などの有害因子が存在していること
(2)その有害因子が、健康障害を起こしうるほどの量、期間、さらされたこと
(3)発症の経過および病態が医学的に見て妥当であること


佐藤さん:ただ病気になって、会社で倒れるだけじゃダメなんだ。

松島先生:デザインの仕事で何か有害物質を扱ってるとか、社長が月に百何十時間も残業をさせたとかいうなら、別ですけどね。

佐藤さん:……社長、うち、大丈夫ですよねぇ?

田中社長:大丈夫に決まってるだろ!普通に業務をしていて、キミが退社後に酒を飲んでばかりいてだな、その結果、胃潰瘍かなんかで会社で倒れても、いかんのだよ。

松島先生:最近はブラック企業が問題になりやすいでしょ。信じられない激務だとすれば、その結果の病気は労災になることが多いです。それでも、会社がゴネると裁判までいきますよ。

佐藤さん:ケガの場合はどうです?やっぱり仕事と因果関係がないとダメですか?

松島先生:業務上の負傷の場合のポイントは、会社の支配・管理下にあったかどうかと、業務に従事していたかですね。

 まず、所定労働時間内や残業時間中に職場で仕事をしているなど、事業主(会社)の支配・管理下で業務に従事している場合のケガは、特別の事情がない限り業務災害と認められます。

 ただし、就業中の職場でも、私用で仕事以外のことをしていたり、本来の業務を逸脱する勝手な行動をしてケガをした場合は認められません

松島先生:要するにたとえば、佐藤さんが仕事をサボって競馬かなんかに行ったりとか、仕事以外のことをしていてケガをしたのならダメなわけです。

田中社長:ホラ見ろ。

佐藤さん:競馬なんか行くわけないじゃないですか!でも、健康じゃないと仕事はできないですから、昼休みにジョギングしていて転んで骨折ったりした場合はどうですか? これならOKでしょ?

松島先生:まずダメですね。健康が仕事に重要なのはあたりまえだし。申し訳ないけど、それは屁理屈に近いですね。

佐藤さん:へ……屁理屈ですか!

 昼休みや就業時間前後に職場にいて仕事をしていないなど、事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合のケガは、業務に従事していないわけですから、業務災害とは認められません。

 ただし、職場の設備や、その管理が悪くてケガをした場合は業務災害になります。トイレも業務に付随する行為とされるので、もしその時間中にケガを負ったら業務災害です。

 また、出張中や、仕事上の外出中に職場以外で仕事をしているなど、事業主の支配下にあるが管理下にはなく、業務に従事しているという場合は、特別な事情がない限り業務災害と認められます

(続く)

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