MBAで教えられている「分析ツール」は知っているだけで仕事に「差」がつく武器になります。本連載ではクリティカル・シンキング、定量分析、交渉、経営戦略などの分野から分析ツールを50個厳選した『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス分析ツール50』から、そのエッセンスを紹介します。第1回は「日経によるFT買収」がテーマです。

日経はどのような分析をして
FT買収を決めたか

昨2015年、日本を代表する経済紙の発行元である日本経済新聞社は、「フィナンシャル・タイムズ」(以下FT)を発行する英国フィナンシャル・タイムズ・グループをピアソン社から買収しました。買収金額は当時のレートで1600億円に上ります。

これにより、日経新聞社の新聞とFTの合計発行部数は300万部となり、経済紙としては一気に世界トップに立ちました。

FTは特にグローバルにおける経済報道で強みを持っており、欧米に幅広い読者層を持っています。市場が国内にほぼ限定されていた日経新聞としては、グローバルに成長する上でも、また国内向けの記事のグローバル化を進める上でもFTの買収が効果的と判断したわけです。

ところで、もしあなたが日経新聞社の本件の担当者だとしたら、どのような分析を行ったでしょうか?

一般に、一部のベンチャー企業の起業家などを除けば、何か事を進めるにあたって、根拠を求められないということはありません。しかも今回のように1600億円もの金額で海外企業を買収するとなると、極めて説得力の高い根拠を必要とするでしょう。

ではその根拠がどこから来るかと言えば、調査による生データに加え、多くはそれらをさらに多面的に深掘りしたり加工したりした「分析」によってもたらされるはずなのです。


筆者は日経新聞のインサイダーではありませんので以下はあくまで想像ですが、今回のケースでは、下記のような分析が行われたのではないかと想像します。

まずベースとして必要なのは、日経新聞が置かれている経営環境の分析です。マクロ環境を分析するPEST分析や、業界分析(規模、成長性、事業特性、儲けやすさ等に関する分析)を、教科書そのままではないにしても、ある程度は行ったはずです。また、市場・顧客分析や競合分析なども当然なされていると考えていいでしょう。