2009年、世界に衝撃を与えた米ゼネラル・モーターズ(GM)の経営破綻と実質国有化。その作業を率いた政府責任者が救済劇の舞台裏からオバマ政権の内実までを明かした暴露本『オーバーホール』(日本語で「総点検」の意味)を出版する。驚くべき事実は、日産・ルノー連合を率いるカルロス・ゴーン氏へのCEO就任要請だけではなかった。(文/ジャーナリスト、ポール・アイゼンスタイン) 

 スティーヴン・ラトナーといえば、その辛辣さで知られている。600億ドル以上もの血税を費やしたゼネラル・モーターズ(GM)、クライスラー両社の救済に向けた懸命の(そして賛否の分かれる)取り組みを、内部からの視点で語った新著『オーバーホール』(日本語で「総点検」の意味)でも、彼の本領は遺憾なく発揮されている。

 ラトナーは連邦政府の自動車作業部会を離れて以来、彼自身が巻き込まれている法律上の問題については控えめに書いているものの、6ヶ月にわたる執務期間中に交渉のあった人びとを、バラク・オバマ大統領から、今週GMのCEOに就任した(この2年間で4人目!)ダニエル・アカーソンに至るまで、事実上すべて俎上に載せている。

 デトロイトの二大メーカーの救済が開始されたのはブッシュ政権の末期だが、GMとクライスラーを存続させるために必要な資金の拠出を認めない姿勢を議会が明らかにしたため、この政治的に厄介なボールはオバマ新大統領にパスされることになった。

 オバマ陣営がこの問題を取り上げたのは2008年11月の大統領選からわずか1週間後のことだったという。顧問らとの最初のミーティングでこの問題が持ち出されたとき、バラク・オバマは決して米メーカーの味方ではなかった。「どうして我が国のメーカーはカローラのようなクルマを作れないのか」と次期大統領は尋ねたという。

 『オーバーホール』のなかで、オバマ大統領はどちらかといえば冷静で公平な上司として描かれている。ラトナーは大統領を「落ち着いて物事を処理するという雰囲気を備えていた」と書いている。自動車作業部会のトップだったラトナーが大統領についてもう少し具体的に書いている例を挙げれば、「Tシャツとジーンズ姿で、無精髭を生やし、靴下も履いていない連中」が、大統領執務室での週末の会合で次にどうすべきかを議論している、というイメージである。