ビジネス環境の変化はますます加速している。そんな時代に求められるのが、環境変化や経営状況を正しくとらえるための手段。そこで注目を集めているのがBI(Business Intelligence)やBA(Business Analytics)だ。ビジネスを可視化し、分析力を高めることで、業務改善やビジネスモデル変革が可能になる。分析力を手に入れるために、企業は何をすべきだろうか。

慶應義塾大学 理工学研究科教授
横溝 陽一氏
三菱商事でIT戦略を担当した後、i2テクノロジーズ・ジャパン社長、ローソン常務執行役員CIOなどを歴任。ベンダーとユーザー双方の立場から、ITに深くかかわってきた。現在は、慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート研究支援統括者として、日本発の光技術に関する先端研究開発の産学連携などを進めている。

「多くの企業で、事実が見えていないことが問題となっています。つまり、顧客や市場の動向をきちんとつかめていない。さらにいえば、企業のなかでも部門によって、“異なる事実”をベースに施策を検討していたりする。つまり、全体が同期していないのです。このような状況が、さまざまな場面でムダや非効率を招いています」

 こう指摘するのは、慶應義塾大学理工学研究科教授の横溝陽一氏である。事実が見えていないまま、主観的な思い込みや印象に頼った判断をしていないか。異なる事実認識をベースに議論していないか──。企業経営者は常に警戒する必要がある。

変化の時代に求められる
ビジネスの可視化・分析

 変化の激しい時代、「事実を見ること」は特に重要だ。ビジネス活動の可視化を進めると同時に分析力を提供するBIやBAが関心を集める背景には、そんな企業経営者の意識がある。

 また、情報爆発ともいうべき環境変化もある。企業におけるIT化のカバーエリアが広がったこともあり、あらゆるデータが膨大に蓄積されるようになった。収集した大量のデータを分析することで、ビジネスのヒントを得られるのではないか。BI・BAを導入する企業には、そんな思いもあるようだ。

 ビジネスのヒントはさまざまだ。たとえば、新商品の販売動向や消費者の声を素早く分析することで、マーケティング手法の見直しや商品の改善につなげることができる。地域限定でスタートした新規事業を取りやめるか、それとも全国展開するかといった判断の材料としても、分析は重要な役割を果たす。

「PDCAサイクルをより速く的確に回すことが重要。経営の近代化とは、そういうことです。そこでPDCAのC、つまりチェックを担うのが分析です」と横溝氏は言う。

 分析結果を活用することで、たとえば、商品をより売れやすい地域に重点配分するといった改善が可能になる。あるいは、消費者の声を分析して、ビジネスモデルそのものを変革することもできるだろう。将来を見通しにくい時代、PDCAサイクルの高度化はこれまで以上に求められている。