日中が領有権を主張する尖閣諸島周辺で発生した、中国漁船と海上保安庁巡視艇の衝突事件。中国人船長の逮捕、そして突然の釈放が巻き起こした異論・反論が、政界や経済界から噴出している。いまだ沈静化の兆しを見せない尖閣問題だが、今回の事件によって、一般国民の対中感情はどう変化したのだろうか? 周辺調査によって巷の声を拾い集めてみると、メディアの論調とは大きく異なる意外な一面が見えてきた。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)

「あんな不愉快な国に行きたくない!」
石原都知事が激怒した中国の強硬姿勢

「あんな不愉快な国には頼まれても行かない」

 9月21日、このように発言して月内に予定していた訪中を取り止める意向を発表したのは、石原慎太郎・東京都知事である。

 国内法で日本の領土とされている尖閣諸島沖で、海上保安庁の巡視艇に中国漁船が衝突した事件において、日本側が船長を拘留したことに対し、中国側は異例の措置に出た。この石原都知事の発言は、中国が閣僚級以上の交流を停止することを発表したことを受けてのものだ。

 日頃から、過激な発言で知られる都知事だが、この日の怒り心頭ぶりはいつになくすさまじかった。産経新聞の報道によると、知事は「中国がやっていることは理不尽な、やくざがやっていることと同じ」「何で政府は実効措置をとらないのか」「防衛省は米国との防衛演習を尖閣でやればいい」などとまくし立てたという。

 この物言いを「痛快」と感じる向きは、少なくないかもしれない。あえてあからさまな表現を用いて“口撃”を行なうのは、文人でもある都知事の計算づくなのだろう。もの言えぬ政府に代わり、大きな影響力を持つキーマンが怒りを露にしたことをきっかけに、メディアを通じて政治家、経営者、識者から反中メッセージが相次ぐことになった。

 予め断っておくが、この記事の趣旨は、尖閣問題における中国の対応の是非を問うものではない。憂慮すべきは、尖閣問題に関わる一連の報道を目にして、「フラストレーションが溜まった」と訴える関係者が続出し、かけがえのない日中の絆に亀裂が入ってしまったことだ。