名古屋市で議会解散請求(リコール)の署名集めが展開されていた9月10日、市議会側がリコール運動に対抗するシンポジウムを開催した。集まったのは、超党派の議員約50人と300人を超える市民たち。パネラーを務めた大学教授らが次々に河村たかし市長の言動を批判した。

 ある憲法学者は「市長が自らの政策実現のために議会リコールを主導するのは、直接請求制度の趣旨に反する」と、市長主導のリコール運動を批判した。そして、「市長が唯一の市民代表なのではなく、議員も全市民の代表だ。憲法は、議会に第一義的な住民代表の役割を与えている」と憲法論を述べ、「(河村市長は)市民を動員するのに長けており、減税に反対する議会を抵抗勢力に仕立て上げた。自らを庶民の代表として議会を攻撃するポピリズムだ」と厳しく批判した。

 また、河村市長のブレーンを務め、その後、離反した大学教授は「河村さんが一番やりたいことは(減税などの公約実現ではなく)議会解散の直接請求だ。本心がわかって、私は彼から離れた。皆、河村氏を過大評価している」と、内情をぶちまけた。そして、河村市長は最初から議会をリコールするために、議会側が飲めない議員定数や報酬の半減をあえて持ち出したとの個人的な見解を明らかにした。

 シンポジウムは2時間に及び、会場内は熱気に包まれた。「民主主義の危機」「二元代表制の否定」こんな言葉が飛び交い、リコール運動への批判が渦巻いた。

 しかし、大事な視点が抜け落ちていた。議会がこれまで何をしてきたのか、そして、これからどうするのかという視点である。これらについてはなぜか、ほとんど言及がなかった。全市民の代表であるはずの個々の議員が、市民からどのように見られているかについてもだ。二元代表制の本来の機能を発揮するよう努力すべきと力説した憲法学者は「議会は住民動員でリコールを目指す動きと正攻法で戦うべきだ」と檄を飛ばす一方で、「市長不信任すると、議会解散になるのでやるべきではない」と言葉を濁した。